転生モブ令嬢にシナリオ大改変されたせいでヒロインの私はハードモードになりました

19.隠しキャラ

 その後、せっかくだからお祝いのお茶会をしないかとエヴァンジェリンから提案され、ガーネット公爵家本邸へ向かうことになったマリナ達四人。
 本邸は王都から近いガーネット公爵領にあるらしい。

「では、改めて、マリナ様のアステール帝国留学決定及び、マリナ様とアルジャノーン殿下の婚約おめでとうパーティーを開始します!」
 ウキウキしたエヴァンジェリンの声を皮切りに、皆ティーカップを持って乾杯をした。
 お茶会はガーネット公爵邸の広い庭園の一画で行われている。
 当然お茶会なので飲み物に関してはアルコールなどは出されず、様々な種類の紅茶やハーブティーやジュースが用意されていた。
 お菓子も焼き菓子やケーキだけでなく、何とポテトチップスや取り寄せたらしい米で作ったせんべいやおかき、前世のマリナが見たことある和菓子もあった。
 流石はガーネット公爵家だとマリナは感じていた。

「本当に、マリナ様があんな環境から抜け出せて、更にはアルジャノーン殿下との婚約もするなんて、これほどおめでたいことはないわ」
 エヴァンジェリンはポテトチップスを頬張りながら頬を緩ませる。
「ありがとうございます、エヴァンジェリン様。口に食べカスがついておりますよ」
 マリナは嬉しそうに笑い、エヴァンジェリンの口を拭く。
 一応近い将来エヴァンジェリンはマリナの義理の姉になるのだが、姉というより妹みたいだと思ってしまうマリナだった。
 お茶会は和気藹々とした様子だった。

 しばらくすると、アルジャノーンとヴィクターは男同士で話を始め、マリナはエヴァンジェリンに連れられてガーネット公爵家の庭園を散歩していた。
「ああ、まさか本当に推しカプが見られるだなんて、(わたくし)嬉し過ぎてどうにかしてしまいそうよ」
 ニマニマと頬を緩ませっぱなしのエヴァンジェリン。
「推しカプ……? 一体どういうことですか?」
 マリナは怪訝そうに首を傾げる。
(わたくし)、『光の乙女、愛の魔法』ではヒロインであるマリナ様が推しだったの。それと、もう一人の推しは隠しキャラ……アルジャノーン殿下よ」
 ふふっと笑うエヴァンジェリン。
「え……!? アルが隠しキャラ……!? というか、あのゲームに隠しキャラがいたんですか!?」
 初めて知ることに、マリナは薄紫の目を大きく見開いた。
「ええ。『光の乙女、愛の魔法』にはエドワード、ショーン、アンソニー、ライアンの四人それぞれに二種類のハッピーエンドが用意されていたでしょう。四人全員、全ての種類のハッピーエンドを見ることができたら、隠しキャラのアステール帝国皇太子アルジャノーン殿下のルートが解放されるの」
 ルンルンとした様子で語るエヴァンジェリン。
「あ……私、ライアンルートの一つ目のハッピーエンドを見ただけでした。ネットとかでネタバレも見ないでやっていたので、全然知りませんでした」
 マリナは前世で『光の乙女、愛の魔法』をどこまで進めていたかを思い出した。
「もしかして、エヴァンジェリン様が私に上級貴族のマナーを身につけさせようとした理由って……?」
「アルジャノーン殿下の隣に並んでも、誰にも文句を言わせないためよ。アルマリは(わたくし)の推しカプなのだから!」
 ずん、と前のめりになるエヴァンジェリン。真紅の目はキラキラと輝いている。
「アルマリ……」
 マリナは若干引き気味の笑みだ。
「そうよ。アルジャノーン殿下とマリナ様のカップリング! エドワードとマリナ様のカップリングであるエドマリも人気ではあるけれど、(わたくし)は断然アルマリ派よ! 前世ではアルマリの二次創作漫画や二次創作イラスト、二次創作小説まで漁りまくったわ!」
 興奮気味に語るエヴァンジェリン。
「……そうですか」
 マリナはその熱量に、困ったように苦笑した。
「それに、『光の乙女、愛の魔法』にはミニゲームがあったでしょう。アルジャノーン殿下のルートはミニゲームのスコアでもハッピーエンドになるかバッドエンドになるか影響があるのよ。ハイスコアじゃないとハッピーエンドは見られないの」
「ミニゲーム……そういえば、どのルートもそのスコアで最初のレポートの成績が決まるんでしたね。実際のこの世界にはミニゲームはなかったですが、最初のレポート課題の時はひたすら調べたり勉強したのでトップの成績でした」
 ハハッと思い出したように笑うマリナ。
「この世界はゲームではなく(わたくし)達の現実だけれど、きっとその努力が実った結果よ。マリナ様の努力はアルジャノーン殿下に響いたということね」
 まるで自分のことのように嬉しそうなエヴァンジェリンだった。
「そうだと嬉しいです」
 マリナもふふっと笑った。
「闇の魔獣襲来イベントもそろそろかなとは思いましたが、やっぱりここはゲームの世界ではないから起こらない可能性もありますよね」
 マリナはどこか安心した表情である。
「ええ。さあ、そろそろ戻ってヴィクター達と合流しましょう」
「はい」
 マリナは花が咲いたような笑みで頷き、エヴァンジェリンと共にアルジャノーンとヴィクターの元へ戻った。

 その後もお茶会は和気藹々と穏やかな様子だった。
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