転生モブ令嬢にシナリオ大改変されたせいでヒロインの私はハードモードになりました

6.悪役令嬢登場

 相変わらず学園での立場は悪いが、負けじと勉強して学年首席の成績を叩き出すマリナ。
 アルも負けじと学年次席の成績だ。
 二人は切磋琢磨して自身を磨いていた。

 そんなある日、何やら学園中が騒ついていることに気づくマリナ。
「あのお方がジュエル王国に帰国なさったそうよ」
「隣国の婚約者もあのお方と一緒に来ているそうだわ」
「確かあのお方、魔道具に関心をお持ちだと聞いたことがありますわ」
「ええ、その通りですわ。魔道具にご興味をお持ちだなんて、珍しいことですわね」
「あのお方、ご婚約者と一緒にこの学園に通うそうよ」
 そんな話を聞いたマリナ。
(『あのお方』……? 誰のことかしら?)
 マリナは不思議そうに首を傾げ、噂をしている生徒達の横を通り過ぎて教室に向かおうとした。
 その時、驚くべき光景を見た。

 ハーフアップの艶やかなカールした銀髪、真紅の目、はっきりと華があり気が強そうな顔立ちの令嬢。そんな雰囲気とは裏腹に、落ち着いた上品なドレスをまとっている。
 彼女の隣には、水色の髪に緑の目の長身の男性。どこかの令息であることは間違いない。
 二人は仲睦まじい様子で学園を歩いていた。

(待って! 悪役令嬢エヴァンジェリンだわ! ゲームではもっと派手な感じだったけれど、全然印象が違う! やっぱり彼女も転生者なのかしら? それに、隣にいる人は誰なのかしら?)
 マリナはエヴァンジェリン達から目が離せなかった。
「あのお方、エヴァンジェリン様がいらしたわ」
「王太子殿下達と同じ学年なのよね」
「お隣にいるご婚約者の方と仲睦まじいご様子で羨ましいですわね」
 噂をする生徒達。
 あのお方というのはエヴァンジェリンのことだったようだ。
(悪役令嬢エヴァンジェリンは王太子以外の人と婚約しているのね)
 マリナは少し離れた場所にいるエヴァンジェリンをじっと見ていた。
 すると、エヴァンジェリンの真紅の目がマリナの薄紫の目とばっちり合う。
(あ……目が合ったわ。どう反応したらいいのかしら?)
 やや戸惑うマリナ。
 一方エヴァンジェリンはその真紅の目をハッと大きく見開いた。
(あ、もしかしてこの反応、彼女も前世の記憶持ちなのかしら?)
 マリナはそう推測した。


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 数日後。
 マリナはエヴァンジェリンの様子を気にしつつ、勉強に精を出していた。
 エヴァンジェリンとは学年が違うのであまり目にすることはないと思っていたのだが、予想外に彼女の姿を目にすることが多くなっていたマリナ。
 アステール帝国に留学していたエヴァンジェリンは、ジュエル王国の魔法学園が初めてなので散歩と称して色々な所に出向いているそうだ。
 特に、マリナ達の学年の教室に出向くことが多いのである。
 もちろん彼女の隣には婚約者がいた。

(あ……今日はツインテールなのね。そういえば、昨日はハーフツインだったわ)
 チラリとエヴァンジェリンを見るマリナ。
 艶やかな銀髪はツインテールになっている。
 エヴァンジェリンは毎日髪型を変えていたのだ。リボンなどの髪飾りも毎日違うものを身に着けている。
(ツインテールの悪役令嬢って前世でも中々いなかったわよね。大体派手な縦ロールだったわ)
 エヴァンジェリンの髪型を見ながらぼんやりと前世を思い出すマリナであった。

 その日の放課後。アルと一緒に図書室で勉強している時のこと。
「そういえば、エヴァンジェリン嬢が帰国したみたいだな」
 アルがペンを止めマリナを見る。
「ええ。前世の記憶と全然違うからびっくりよ。だけど、ここは現実で、ゲームのキャラ……物語の登場人物として見るのもよくないわよね」
 マリナはゆっくりと頭を整理した。
「時々前世のキャラ……登場人物と混同してしまうことがあるから、気をつけないといけないわ」
 マリナは苦笑し、再び魔力に関する本に目を移す。
(そうよ、私達はゲームの世界を生きているのではないわ。ここが現実なのよ。現実を生きられないのは前世で読んだライトノベルのお花畑ヒドインだけでいいわ)
 マリナは勉強に集中するのであった。
 その様子を見てアルはフッと優しく表情を綻ばせ、彼も本の内容を再びまとめ始めた。


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 数日後の昼休み。
 マリナはいつもアルと一緒に昼食を取る場所へ向かおうとしていた時のこと。
「きゃっ」
 急に足元が盛り上がり転んでしまうマリナ。
 マリナの背後からはクスクスと笑う声。
 ドロシア達だ。
 ドロシアの取り巻きの一人は土魔法を持っているのでこうしてつまずかせてくるのである。
(油断したわ……)
 近くに誰もいなかったので何かされることはないと思っていたマリナである。
「あらあら、無様ね。でも貴女は地面に這いつくばるのがお似合いよ」
 ドロシアが侮蔑の笑みを向ける。
「今日はどの先生を誑かしに行くのかしら?」
「男を誑かすことしかできない癖にね」
「不正までして得た成績がそんなに価値のあるものかしら?」
 ドロシアとその取り巻き達がマリナを罵っていた。
 もう慣れたマリナは内心ため息をつきながら呆れていた。
(本当に毎日毎日飽きないわね)
 マリナはひたすら心を無にしてドロシア達が去るのを待っていた。
 その時だ。
「貴女達! 一体何をしているの!?」
 凛とした声がその場に響いた。
 声の主を見てマリナは薄紫の目を大きく見開く。
(悪役令嬢エヴァンジェリン……! じゃなくて、ガーネット公爵令嬢エヴァンジェリン様!)
 乙女ゲームのキャラとして見なくなったので、心の中でだが改めて呼び直したマリナである。
 ちなみにこの日のエヴァンジェリンの髪型は編み込みのポニーテールだった。
「エヴァンジェリン様……」
 ドロシアが恐る恐るその名を呼ぶ。
(わたくし)には今貴女達が彼女をいじめているように見えたわ。これは一体どういうことなのかしら?」
 真紅の目をキッと鋭くし、射抜くようにドロシアとその取り巻き達を睨むエヴァンジェリン。その姿は迫力があった。
「そんな、(わたくし)達はいじめなどしておりませんわ。ただ、この者に正しいことを教えようとしていたのでございます」
「ええ、その通りですわ、エヴァンジェリン様」
 ドロシアとその取り巻き達はたじろいでいる。
「正しいこと……ね。集団で寄って(たか)って一人を責め立てることが? (わたくし)には貴女達の方が間違えてると思うのだけど、その辺りはどうお考えなのかしら?」
 疑問系だが有無を言わさぬ口調のエヴァンジェリンだ。
「……もう行きましょう」
 ドロシア達は居心地が悪くなりそそくさと逃げ出した。
 逃げ足だけは早いものである。
「大変だったわね。怪我とかはないかしら?」
 先程とは打って変わり、優しげな口調のエヴァンジェリン。そっとマリナに手を差し出してくれた。
「……ありがとうございます」
 マリナは恐る恐るエヴァンジェリンの手を取り立ち上がった。
「貴女は……マリナ・ルベライト様ね?」
 確認するような口調のエヴァンジェリン。
「はい。……改めまして、ルベライト男爵家長女、マリナ・ルベライトと申します」
 ルベライト男爵家で身につけた礼儀作法をしっかりと発揮できたマリナである。
(わたくし)はガーネット公爵家長女、エヴァンジェリン・ガーネットよ」
 エヴァンジェリンは真紅の目を優しく細めた。
 マリナは予想外の状況でエヴァンジェリンと知り合った。
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