転生モブ令嬢にシナリオ大改変されたせいでヒロインの私はハードモードになりました
7.便利な合言葉
「あの、マリナ様……今から私、少しおかしなことを言うかもしれないわ」
エヴァンジェリンはそう切り出した。
「マリナ様は……日本という国をご存知かしら?」
おずおずとした様子のエヴァンジェリン。
(それは……! 転生者であることを確かめる便利な合言葉だわ! 前世で読んだライトノベルやWeb小説であったやつよ! まさか本当に聞けるとは……!)
マリナの胸の中に懐かしさが広がった。
「ええ、存じ上げております」
マリナはゆっくりと頷いた。
「貴女も転生者ということね。では、『光の乙女、愛の魔法』という乙女ゲームももしかしてご存知?」
エヴァンジェリンは嬉しさ半分、警戒半分といったところだ。
本来の悪役令嬢なのでヒロインを警戒してしまう気持ちはよく分かる。
「はい。それも存じ上げております。ただ、もうお分かりかもしれませんが、私は王太子達を攻略する気はありません」
マリナは入寮日のことを思い出し苦笑した。
「そうよね。色々と噂で聞いたわ。かなり悪意ある噂を流されているようね。入寮日に王太子殿下達に言い寄って拒絶された、男を誑かす破廉恥な令嬢などと言われているじゃないの。本当に酷い噂ね」
エヴァンジェリンは同情するようにマリナを見ていた。
「エヴァンジェリン様は……私のことを信じてくださるのですね」
「当たり前よ。噂を一方的に信じ込んで破滅する展開は前世のWeb小説でたくさん読んだもの。きちんとそれが真実がどうかを確認しないといけないわ」
「エヴァンジェリン様もそういったものを読んでいたのですね」
マリナは薄紫の目を丸くした。
「ええ。乙女ゲームも熱中したけれど、漫画やライトノベルやWeb小説も読み漁っていたわ。もちろんアニメも見ていたから、声優にもそれなりに詳しいと自負しているわ」
懐かしげに語るエヴァンジェリン。
その様子にマリナはほっとしてしまう。
(この感覚は……前世の海外旅行で偶然日本人に会った時と同じ感覚ね。私が死ぬ間際、大学の卒業旅行で海外に行った時、偶然私達と同じように卒業旅行中のチャラそうな日本の男子大学生軍団と会った時も同じ感覚になったわ。絶対に日本だと関わり合いになろうとは思わなくても、海外だと気を許してしまうのよね)
マリナは前世を思い出して懐かしい気持ちに浸っていた。
「マリナ様、今の私はこのジュエル王国でもかなり大きな権力を持つガーネット公爵家の娘。きっと貴女の力になることができるわ。貴女の置かれた状況を少しは変えることができると思うの。何かあったら頼ってちょうだい。私、今の貴女が置かれた状況が理不尽で許せないの」
エヴァンジェリンはマリナの手を握る。凛としたその笑みは、マリナに力を与えてくれるようだった。
「ありがとうございます、エヴァンジェリン様」
新たな味方ができたことで、マリナは少し心強くなった。
その時、第三者の声が聞こえた。
「あれ? エヴァンジェリン、ここにいたんだね」
声の方を見ると、水色の髪に緑の目の、長身の男性がいた。
数日前にマリナがエヴァンジェリンを見かけた時、彼女の隣にいた令息である。
「あら、ヴィクター、探してくださったの?」
エヴァンジェリンはふふっと微笑み首を傾げている。
「まあね。急にどこかへ行ってしまうから少し心配になったんだよ」
ヴィクターと呼ばれた令息は肩をすくめる。
「心配かけてごめんなさい、ヴィクター」
エヴァンジェリンも肩をすくめた。
するとヴィクターはエヴァンジェリンの隣にいるマリナに目を向け、緑の目を丸くした。
「エヴァンジェリン、彼女と知り合いになったんだね」
「ええ、そうよ」
エヴァンジェリンはふふっと笑い、マリナに目を向ける。
「マリナ様、彼はヴィクター・インテクルース。アステール帝国のインテクルース公爵家の長男で、私の婚約者なの」
「そうなのですね。初めまして、ルベライト男爵家長女、マリナ・ルベライトと申します」
エヴァンジェリンにヴィクターを紹介され、マリナは彼に挨拶をした。
「初めまして、マリナ嬢。アステール帝国、インテクルース公爵家長男、ヴィクター・インテクルースです。よろしく」
ヴィクターはマリナに紳士的な笑みを向ける。
「よろしくお願いします」
マリナは男爵家で習ったような淑女の笑みだ。
そしてエヴァンジェリンはそっとマリナに耳打ちをする。
「ちなみにヴィクターは私の前世について知っているのよ」
「そうなのですね」
マリナは小さめの声で、薄紫の目を丸くした。
「マリナ様はどなたかに前世のことは話しているのかしら?」
耳元で小声で聞いてくるエヴァンジェリン。
「はい。授業で出された課題のペアの男子生徒には話しました。まあ私がうっかり失言というか、おかしなことを言ってしまったので訝しがられてしまいまして」
相変わらず小声のマリナ。当時のことを思い出し苦笑していた。
「まあ、私も似たようなものだわ。この世界にはないものについて言ってしまって」
小声でエヴァンジェリンはふふっと笑った。
「二人でコソコソとどうしたんだい?」
きょとんと首を傾げているヴィクター。
「何でもないわ、ヴィクター」
エヴァンジェリンはふふっと笑った。
「そっか。仲間外れにされるのは少し寂しいけれど、同性同士の秘密の話も必要だよね」
紳士的な笑みであるが、ほんの少し拗ねたようなヴィクター。
「もう、ヴィクターったら」
エヴァンジェリンは困ったように微笑んだ。
(エヴァンジェリン様はヴィクター様と仲睦まじい様子ね)
マリナはエヴァンジェリン達を温かい目で見守っていた。
「マリナ? どうしたんだ?」
「あら、アル」
丁度そこへアルがやって来たので、マリナは手を振る。
するとアルを見たエヴァンジェリンが真紅の目を大きく見開いた。
「エヴァンジェリン様達と知り合いになったのよ」
「ああ、そうか」
アルは納得したように頷く。
「初めまして。新興の男爵家のアル・ジョンソンです」
アルは二人に向かって自己紹介をした。新興の男爵家の部分を少し強調しているかのような声だ。
「えっと……初めまして。アステール帝国インテクルース公爵家長男、ヴィクター・インテクルースです」
ヴィクターはほんの少し含みのある表情になった。
「ジュエル王国ガーネット公爵家長女、エヴァンジェリン・ガーネットですわ」
エヴァンジェリンは若干の戸惑いが感じられたが、公爵令嬢らしい所作と挨拶だった。
「よろしくお願いしますね」
アルは意味ありげな表情だ。
「マリナ様、彼とはどういったご関係なのかしら?」
「レポート課題でペア同士でした」
エヴァンジェリンから恐る恐る聞かれたのでマリナはそう答えた。
「そう……」
エヴァンジェリンは少し考え込む。そしてマリナにそっと耳打ちをする。
「マリナ様、本当に『光の乙女、愛の魔法』のキャラを攻略する気はないのよね?」
「ええ、そうですが」
マリナは小声できょとんとしていた。
「そう……。そうなのね……」
エヴァンジェリンは再び考え込むのであった。
(エヴァンジェリン様、どうしたのかしら?)
マリナはきょとんとするばかりであった。
エヴァンジェリンはそう切り出した。
「マリナ様は……日本という国をご存知かしら?」
おずおずとした様子のエヴァンジェリン。
(それは……! 転生者であることを確かめる便利な合言葉だわ! 前世で読んだライトノベルやWeb小説であったやつよ! まさか本当に聞けるとは……!)
マリナの胸の中に懐かしさが広がった。
「ええ、存じ上げております」
マリナはゆっくりと頷いた。
「貴女も転生者ということね。では、『光の乙女、愛の魔法』という乙女ゲームももしかしてご存知?」
エヴァンジェリンは嬉しさ半分、警戒半分といったところだ。
本来の悪役令嬢なのでヒロインを警戒してしまう気持ちはよく分かる。
「はい。それも存じ上げております。ただ、もうお分かりかもしれませんが、私は王太子達を攻略する気はありません」
マリナは入寮日のことを思い出し苦笑した。
「そうよね。色々と噂で聞いたわ。かなり悪意ある噂を流されているようね。入寮日に王太子殿下達に言い寄って拒絶された、男を誑かす破廉恥な令嬢などと言われているじゃないの。本当に酷い噂ね」
エヴァンジェリンは同情するようにマリナを見ていた。
「エヴァンジェリン様は……私のことを信じてくださるのですね」
「当たり前よ。噂を一方的に信じ込んで破滅する展開は前世のWeb小説でたくさん読んだもの。きちんとそれが真実がどうかを確認しないといけないわ」
「エヴァンジェリン様もそういったものを読んでいたのですね」
マリナは薄紫の目を丸くした。
「ええ。乙女ゲームも熱中したけれど、漫画やライトノベルやWeb小説も読み漁っていたわ。もちろんアニメも見ていたから、声優にもそれなりに詳しいと自負しているわ」
懐かしげに語るエヴァンジェリン。
その様子にマリナはほっとしてしまう。
(この感覚は……前世の海外旅行で偶然日本人に会った時と同じ感覚ね。私が死ぬ間際、大学の卒業旅行で海外に行った時、偶然私達と同じように卒業旅行中のチャラそうな日本の男子大学生軍団と会った時も同じ感覚になったわ。絶対に日本だと関わり合いになろうとは思わなくても、海外だと気を許してしまうのよね)
マリナは前世を思い出して懐かしい気持ちに浸っていた。
「マリナ様、今の私はこのジュエル王国でもかなり大きな権力を持つガーネット公爵家の娘。きっと貴女の力になることができるわ。貴女の置かれた状況を少しは変えることができると思うの。何かあったら頼ってちょうだい。私、今の貴女が置かれた状況が理不尽で許せないの」
エヴァンジェリンはマリナの手を握る。凛としたその笑みは、マリナに力を与えてくれるようだった。
「ありがとうございます、エヴァンジェリン様」
新たな味方ができたことで、マリナは少し心強くなった。
その時、第三者の声が聞こえた。
「あれ? エヴァンジェリン、ここにいたんだね」
声の方を見ると、水色の髪に緑の目の、長身の男性がいた。
数日前にマリナがエヴァンジェリンを見かけた時、彼女の隣にいた令息である。
「あら、ヴィクター、探してくださったの?」
エヴァンジェリンはふふっと微笑み首を傾げている。
「まあね。急にどこかへ行ってしまうから少し心配になったんだよ」
ヴィクターと呼ばれた令息は肩をすくめる。
「心配かけてごめんなさい、ヴィクター」
エヴァンジェリンも肩をすくめた。
するとヴィクターはエヴァンジェリンの隣にいるマリナに目を向け、緑の目を丸くした。
「エヴァンジェリン、彼女と知り合いになったんだね」
「ええ、そうよ」
エヴァンジェリンはふふっと笑い、マリナに目を向ける。
「マリナ様、彼はヴィクター・インテクルース。アステール帝国のインテクルース公爵家の長男で、私の婚約者なの」
「そうなのですね。初めまして、ルベライト男爵家長女、マリナ・ルベライトと申します」
エヴァンジェリンにヴィクターを紹介され、マリナは彼に挨拶をした。
「初めまして、マリナ嬢。アステール帝国、インテクルース公爵家長男、ヴィクター・インテクルースです。よろしく」
ヴィクターはマリナに紳士的な笑みを向ける。
「よろしくお願いします」
マリナは男爵家で習ったような淑女の笑みだ。
そしてエヴァンジェリンはそっとマリナに耳打ちをする。
「ちなみにヴィクターは私の前世について知っているのよ」
「そうなのですね」
マリナは小さめの声で、薄紫の目を丸くした。
「マリナ様はどなたかに前世のことは話しているのかしら?」
耳元で小声で聞いてくるエヴァンジェリン。
「はい。授業で出された課題のペアの男子生徒には話しました。まあ私がうっかり失言というか、おかしなことを言ってしまったので訝しがられてしまいまして」
相変わらず小声のマリナ。当時のことを思い出し苦笑していた。
「まあ、私も似たようなものだわ。この世界にはないものについて言ってしまって」
小声でエヴァンジェリンはふふっと笑った。
「二人でコソコソとどうしたんだい?」
きょとんと首を傾げているヴィクター。
「何でもないわ、ヴィクター」
エヴァンジェリンはふふっと笑った。
「そっか。仲間外れにされるのは少し寂しいけれど、同性同士の秘密の話も必要だよね」
紳士的な笑みであるが、ほんの少し拗ねたようなヴィクター。
「もう、ヴィクターったら」
エヴァンジェリンは困ったように微笑んだ。
(エヴァンジェリン様はヴィクター様と仲睦まじい様子ね)
マリナはエヴァンジェリン達を温かい目で見守っていた。
「マリナ? どうしたんだ?」
「あら、アル」
丁度そこへアルがやって来たので、マリナは手を振る。
するとアルを見たエヴァンジェリンが真紅の目を大きく見開いた。
「エヴァンジェリン様達と知り合いになったのよ」
「ああ、そうか」
アルは納得したように頷く。
「初めまして。新興の男爵家のアル・ジョンソンです」
アルは二人に向かって自己紹介をした。新興の男爵家の部分を少し強調しているかのような声だ。
「えっと……初めまして。アステール帝国インテクルース公爵家長男、ヴィクター・インテクルースです」
ヴィクターはほんの少し含みのある表情になった。
「ジュエル王国ガーネット公爵家長女、エヴァンジェリン・ガーネットですわ」
エヴァンジェリンは若干の戸惑いが感じられたが、公爵令嬢らしい所作と挨拶だった。
「よろしくお願いしますね」
アルは意味ありげな表情だ。
「マリナ様、彼とはどういったご関係なのかしら?」
「レポート課題でペア同士でした」
エヴァンジェリンから恐る恐る聞かれたのでマリナはそう答えた。
「そう……」
エヴァンジェリンは少し考え込む。そしてマリナにそっと耳打ちをする。
「マリナ様、本当に『光の乙女、愛の魔法』のキャラを攻略する気はないのよね?」
「ええ、そうですが」
マリナは小声できょとんとしていた。
「そう……。そうなのね……」
エヴァンジェリンは再び考え込むのであった。
(エヴァンジェリン様、どうしたのかしら?)
マリナはきょとんとするばかりであった。