【コミカライズ企画進行中】捨てられ聖女は働かないっ!〜追放されたので念願のスローライフはじめます〜
「……こんなことシアにしか言わない」
権力者というのは私が思うよりずっと大変なのだろう。
王城にいる時は絶対君主として怖いくらいに威圧感を放ち仕事をこなしているその人と、うちでまったりくつろぐアルのギャップに最初は戸惑いもあったけれど、私はどちらのアルも愛おしい。
そんな事を考えながら私は手触りのいい髪を何度も撫で、一緒にいられる限りある時間に感謝する。
「シア」
アルが紅茶色の瞳で私の事を熱っぽく見つめる。
「シア成分が足りないんだけど」
「シア成分って何それ?」
クスクス笑う私の頬に手を添えて、アルは私にキスをする。
「俺の奥さんは今日も可愛い」
そう笑ったアルは、私の事をとても大事な宝物のように扱う。
「アル、私今幸せよ。私がこの先、歳をとっておばあちゃんになっても、こうやって手を繋いでくれる?」
「うん、もちろん」
アルは私の大好きな笑顔で、私の手を優しく握る。
「ねぇ、アル。2人でいるこの時間を覚えていてね」
アルと並んでごはんを食べる時間が好き。
アルとありがとうを言い合えることが嬉しい。
ふとした瞬間に目が合って、触れた温もりに心が温まる。
私はそんな風に好きな人と一緒に笑いながらこれから先を過ごすのだ。
その全部が愛おしく、一欠片すら失くしたくない。
そんな宝物のような大切な時間。
私にとって理想のスローライフ。
「愛し足らない。甘やかしていい?」
そう言って私のピンク色の髪を軽く引っ張るアルにドキドキしながら、私は頷いた。
「ねぇ、アル知ってる? 例えば、恋をして、子を成したとしたら、その恋は血筋という形で永遠に遺るんだって」
私はどれだけがんばっても、きっと100年後ここにはいないけれど。
「私を見つけてくれてありがとう。沢山、幸せの形を遺していくから、覚悟してね」
紅茶色の瞳に私はそう宣言した。
◆◆◆◆◆
最果ての地ラスティのハズレに、満月の夜に大きな花束を抱えた魔族が1人静かに降り立った。
「おや、先客だ」
クスッと笑ったアルを見つけて、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「満月の夜は出歩きたくなっちゃうの。血かしらね」
ピンク色の髪を風にはためかせ、紅茶色の瞳を瞬かせた彼女は笑う。
「魔王が護衛もつけずに一人でふらふらしちゃダメだろ」
嗜めると言うよりは、恒例のやりとりのような口調でアルはそう笑う。
「ふふ、大丈夫よ、パパ。だって、私にはこれがあるもの」
護りの銃を握りしめた彼女は笑う。
「ヒトとの関係を維持改善するのも大変ね。今日も一日会議だった」
そう言ってうーんと伸びをした彼女は、アルに話しかける。
「ねぇ、パパ。お話し聞かせてよ。ヒトと魔族の関係を少しだけ改善させた、奇跡みたいな魔王と聖女の物語」
満月の夜でも変わらず人と同じ容姿を保っている彼女の、自分譲りのこちらを見返すその瞳だけが唯一彼女が魔族の血を引いていることを証明していた。
そんな娘の頭を撫でて、アルは満月を見上げる。
「そうだねぇ、どこから話そうか? それは、昔々、まだ魔ノ国とこの国がお互い睨み合っていた時代の話」
そう言ってアルは物語を紡ぐ。自分が愛した聖女の遺した、宝物のような時間について。
Fin.
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!
権力者というのは私が思うよりずっと大変なのだろう。
王城にいる時は絶対君主として怖いくらいに威圧感を放ち仕事をこなしているその人と、うちでまったりくつろぐアルのギャップに最初は戸惑いもあったけれど、私はどちらのアルも愛おしい。
そんな事を考えながら私は手触りのいい髪を何度も撫で、一緒にいられる限りある時間に感謝する。
「シア」
アルが紅茶色の瞳で私の事を熱っぽく見つめる。
「シア成分が足りないんだけど」
「シア成分って何それ?」
クスクス笑う私の頬に手を添えて、アルは私にキスをする。
「俺の奥さんは今日も可愛い」
そう笑ったアルは、私の事をとても大事な宝物のように扱う。
「アル、私今幸せよ。私がこの先、歳をとっておばあちゃんになっても、こうやって手を繋いでくれる?」
「うん、もちろん」
アルは私の大好きな笑顔で、私の手を優しく握る。
「ねぇ、アル。2人でいるこの時間を覚えていてね」
アルと並んでごはんを食べる時間が好き。
アルとありがとうを言い合えることが嬉しい。
ふとした瞬間に目が合って、触れた温もりに心が温まる。
私はそんな風に好きな人と一緒に笑いながらこれから先を過ごすのだ。
その全部が愛おしく、一欠片すら失くしたくない。
そんな宝物のような大切な時間。
私にとって理想のスローライフ。
「愛し足らない。甘やかしていい?」
そう言って私のピンク色の髪を軽く引っ張るアルにドキドキしながら、私は頷いた。
「ねぇ、アル知ってる? 例えば、恋をして、子を成したとしたら、その恋は血筋という形で永遠に遺るんだって」
私はどれだけがんばっても、きっと100年後ここにはいないけれど。
「私を見つけてくれてありがとう。沢山、幸せの形を遺していくから、覚悟してね」
紅茶色の瞳に私はそう宣言した。
◆◆◆◆◆
最果ての地ラスティのハズレに、満月の夜に大きな花束を抱えた魔族が1人静かに降り立った。
「おや、先客だ」
クスッと笑ったアルを見つけて、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「満月の夜は出歩きたくなっちゃうの。血かしらね」
ピンク色の髪を風にはためかせ、紅茶色の瞳を瞬かせた彼女は笑う。
「魔王が護衛もつけずに一人でふらふらしちゃダメだろ」
嗜めると言うよりは、恒例のやりとりのような口調でアルはそう笑う。
「ふふ、大丈夫よ、パパ。だって、私にはこれがあるもの」
護りの銃を握りしめた彼女は笑う。
「ヒトとの関係を維持改善するのも大変ね。今日も一日会議だった」
そう言ってうーんと伸びをした彼女は、アルに話しかける。
「ねぇ、パパ。お話し聞かせてよ。ヒトと魔族の関係を少しだけ改善させた、奇跡みたいな魔王と聖女の物語」
満月の夜でも変わらず人と同じ容姿を保っている彼女の、自分譲りのこちらを見返すその瞳だけが唯一彼女が魔族の血を引いていることを証明していた。
そんな娘の頭を撫でて、アルは満月を見上げる。
「そうだねぇ、どこから話そうか? それは、昔々、まだ魔ノ国とこの国がお互い睨み合っていた時代の話」
そう言ってアルは物語を紡ぐ。自分が愛した聖女の遺した、宝物のような時間について。
Fin.
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!