【コミカライズ企画進行中】捨てられ聖女は働かないっ!〜追放されたので念願のスローライフはじめます〜
「アルは小さいのにしっかりしているわね。それに町のみんなが良くしてくれるのもアルのおかげね。私は本当に働きもせず、ダラダラとスローライフを満喫して、なんだか情けなくなってきちゃったわ」

 本当はいつまでもこんな事をしていてはいけないのだろう。聖女(わたし)がいなくなって、半年。首都近郊の結界が綻び、魔獣の出現率が上がったとこの間ギルドで耳にした。
 とはいえ私は罪人として追放された身。きっと新しい聖女様がなんとかしてくれるはず。
 そうやって、誰かに何かを押し付けて、役割を放棄して、私は一体何がしたかったのだろう。
 働き者のアルやこの町の人たちを見ていると、そんな事を考えてしまうのだ。

「……シアは、本当に真面目だね」

 ことっと自分の分のカップをテーブルに置いたアルは、トコトコと私の側までやってきて、椅子に座っている私の頭を撫でた。
 誰かに頭を撫でられるなんて、孤児院で先生に褒められた時以来で、私は驚く。

「ねぇ、シア。シアが何もしてないなんて事ないよ」

 紅茶色の瞳が、とても真剣な眼差しで、私の目を見る。

「この土地で、作物が育つのはシアが瘴気を祓っているからだよ」

 俺はちゃんと知っているよ、ととても優しい顔をしてアルは笑う。

「シアは、俺が怪我をしたら手当てしてくれるでしょ?」

 本当は放っておいたって、すぐ治るんだけどね、と苦笑しながら腕に巻いた包帯を見せる。

「何にもしないって言いながら、結局気になって、作物を見て回ったり、家畜の世話をしてみたり、こっそりみんなに傷薬を差し入れしたり、そんなことしてるでしょ」

 アルは私の両手をとって、言葉を1つ1つ選びながら、一生懸命伝えてくれる。

「全部、シアからだったんだよ」

 私は、そんなまっすぐ見てくるアルの瞳がまぶしすぎて、目を伏せてしまう。

「みんなが優しくしたいと思うのはね、シアがたくさん、"優しい"をくれたからなんだよ」

「……私は、優しくなんかないよ」

「充分、優しいよ。行き場のない俺のこと、詳しい事情も聞かずにここに置いてくれているでしょ?」

 アルは、そう言って小さな体で私のことを抱きしめる。

「いつか、シアがまた笑えるようになるまで、元気になるまで、俺が君を守るから。シアはそのままでいいんだよ」

 大丈夫、大丈夫とまるで小さな子どもをあやすみたいにアルは、とても優しい声で何度もつぶやく。
 その声を聞いていたら、なんだか無性に泣きたくなった。

「はぁ、アルはきっと大きくなったら、女の子にモテモテね。うちの子が、イケメンに育ってて、お姉ちゃんとしては嬉しいわ」

 私は茶化すようにそう言った。君を守るだなんて、まるで王子様みたいなセリフ。
 だけど、アルが言うと絵本の中のワンシーンみたい。

「アルが出て行く日が来たら、お姉ちゃん泣いちゃうわ」

 せめて、この子がきちんと自立できるように、私はそろそろ前を向かなければ。
 なんだかそんな風に元気が出た。

「シアをお姉ちゃんと思ったことないんだけど」

 ちょっと拗ねたように、アルはそういう。

「おっと、アルが急に辛辣に。まぁ確かに年下に、おんぶに抱っこじゃ、そう思われるかもしれないけど」

「……シアは、ホントの俺を知らないから」

「えっ?」

 私から体を離したアルは、しぃーと人差し指を唇に当てて、小首をかしげ、

「内緒」

 といたずらっぽく笑った。
 なんだ、この子超絶かわいい。そんな仕草もめちゃめちゃ似合う。
 私は今日もこの小さな王子様に、キュンと癒されながら、1日を過ごす幸せを噛み締めた。
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