【コミカライズ企画進行中】捨てられ聖女は働かないっ!〜追放されたので念願のスローライフはじめます〜
 アルに手を引かれて、私は町中をめぐる。行く先々で、たくさんの花を受け取り、感謝の言葉を告げられた。

「ねぇ、シア。俺の言った通りでしょ? みんなシアに感謝してる。それはね、シアがみんなのこと助けてくれたからなんだよ。みんなちゃんとシアが瘴気を祓ってくれたことも、作物が育つように祈ってくれていたことも知っているよ」

 私は自分の手の中にある、抱え切れないほど、たくさんの花の形をした感謝のしるしに顔を埋めて、なんだかとても泣きたい気持ちになった。

「シア、どうしたの? なんで泣いてるの? どこか痛い?」

 とても慌てたような声でアルが私に尋ねる。

「違うの。とてもうれしいの。うれしいのに涙が出るの、なんだかとても久しぶりな気がする」

 ああ、そうだ。思い出した。
 聖女だと言われたばかりの頃は、私はただ誰かの役に立ちたくて、ただありがとうと言われることがこんなにも嬉しくて、こんな気持ちをくれる誰かの為にも、私は聖女として立ち続けようとそう思っていたのだった。
 孤児院にいて、先生のそばで聖女として活動していた時は、いつもそんな気持ちだったのに、顔も見たことなかった父親だと名乗るノートン伯爵に引き取られ、教会に売られた後、いつの間にかそんな気持ちは擦り切れて、私は疲れ果てていたのだと今更ながら気がついた。

『シア、いいの。これでいいの。シアはシアの思う通りに生きていいの』

 と久しぶりに母の声が聞こえた気がした。 
 
「アル、聞いてほしいことがあるの」

 私は、唐突に聖女であったことをアルに話したいと思った。
 私の過去を聞いてほしいと思った。
 そして、私はアルときちんと向き合って、これからのことを決めていかなくてはいけないと、決意した。

「シア?」

 不思議そうな顔をして、きょとんとこちらを見つめるかわいい私の同居人に、私は初めて笑いかけた。

「アル、いつもありがとう。アルがいてくれて、本当によかった」

 私が笑ったことに驚いたような顔をしたアルは、私の言葉を聞いてとびっきりの笑顔と共に私に抱きついた。
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