【コミカライズ企画進行中】捨てられ聖女は働かないっ!〜追放されたので念願のスローライフはじめます〜

11.その聖女、キレる。

 ノエルが来た理由も分かり、私はもう大丈夫なのだとラスティを案内してあげようかなという気分になった時だった。
 禍々しい殺気と共に、真っ黒な槍が飛んできて、私とノエルはそれぞれ後退する。

「シアに近づくなっ!!」

 一瞬で草むらから出てきたアルは片腕を広げ、私を庇うように立ちノエルを睨みつけていた。

「っ!! コイツ、魔族かっ」

 何故こんなところにと剣を表出させ構えたノエルは、アルを睨みつける。

「ダメっ! この子は」

「……聖女が魔族を庇うなど、追放されて堕ちたか」

 私ごとアルを睨むノエルの怒気に応じるようにアルの紅茶色の目は怪しく光り、好戦的に笑う。
 アルは知らない言葉で詠唱し、真っ黒な槍を表出させ構える。

「アル、ダメよ。あの人アレで勇者なの。あなたが敵う相手じゃないわ」

 相手は勇者で、人間界最強の戦士だ。その辺の魔獣を狩るのとはわけが違う。

「せっかく笑うようになったシアを、連れて行くことは許さないっ」

 だが、アルには私の言葉が届いていないかのように、構えた槍を振りかざしたままそう言った。

「魔族は、滅する」

「ねぇ! アルは確かに魔族だけど、とってもいい子で」

 アルが槍を下げそうにないので、仕方なくノエルの説得を試みるが、

「うるさい、聖女は黙っていろ」

 構えた剣に青く煌めく炎魔法を纏わせて一歩も引く気配がない。こんな、子ども相手にいきなり全火力って、嘘でしょ!?

「シアへの暴言も許さないよ」

 先に仕掛けたのはアルだった。今まで人に向かって攻撃するアルを見た事がなかったけれど、こんな小さな体にどれほどの力が蓄えられているのかと驚くほどの怪力で、勇者の剣ごとノエルを吹き飛ばした。
 だが、ノエルも負けてはいない。吹き飛ばされても空中でなんなく体勢を整え、アルの槍を壊しにいく。

「ねぇ、2人とも」

 私の目の前で突如全力でぶつかりはじめた2人に声をかけるが、私の声は2人の耳に届かない。

「やめて……もう、やめてよ」

 2人の激しい攻防に巻き込まれて、森の木々や植物たちが、薙ぎ倒され燃えていく。

「ねぇ、やめなさいってばっ!!」

 勇者であるノエルが強い事は当然知っていたが、アルがこんなに強いだなんて知らなかった。ノエルに対して一歩も引く事なく、振りかざした真っ黒な槍でノエル本体に攻撃を打ち込んでいく。
 強大なエネルギー同士がぶつかり合い、大地が揺れ、暗雲がかかった空で稲妻が鳴る。それに呼応するように濃い邪気が発生し空気を汚していく。
 この半年で育てた貴重な薬草が踏み荒らされ、農耕や生活水に欠かせない川の水まで汚染される。
 せっかく、今日の朝早起きして私が清めたのに。
 ノエルが放った攻撃魔法をアルが弾きその流れ弾がマロの足元に落ちた。それに驚いたマロが大きな声で鳴いた。
 その瞬間、私の中で堪忍袋の緒がキレた。
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