【コミカライズ企画進行中】捨てられ聖女は働かないっ!〜追放されたので念願のスローライフはじめます〜
アルも"どこか"の"何か"から、逃げてきたのかもしれない、と唐突に思った。初めて会ったときの、あの傷は明らかに誰かに害されたものだった。
きっと狙われたのはあの時だけではないだろう。アルの体には痛々しい無数の古傷があった。その傷跡を思い出して、私は言葉を紡げなくなる。
「言えない事が多いけど、これだけは言える。俺は、"俺の聖女"を絶対に傷つけない」
紅茶色の瞳は、まっすぐに私を見つめて揺らがずに、そういった。
アルの言葉を聞いて私は急速に気持ちが冷めていく。
結局、必要なのは私自身《セリシア》じゃなくて、聖女なのかとなんだか泣きたい気持ちになった。
アルだけは、聖女なんて関係なく私と居てくれたのではないかと、勝手に期待をして、それが勘違いだったって気づいただけなのに。
"私"なんてただの孤児で、"聖女様"でなければ誰も見向きもしない存在なんて、知っていたのに馬鹿みたい。
「事情は話せないけど、ここに置いてくれるなら、俺のこと好きにしていいよ?」
そう言ってアルは対価に自分自身を差し出す。
『この土地は大体訳ありさんばかりが流れてくるんですよ〜』
そう言ったシェイナの言葉を思い出す。
逃げ出した聖女に、追われている魔族。ホント、その通りだわ。
「……そう。でも、アルの目的が呪いを解く事で、そのために聖女の力が必要だったなら、勇者に居所がばれて追われるかもしれないリスクを背負ってまで、ここにいるメリットなんて正直ないんじゃないの?」
目的ならもう果たしたでしょ? それとも、あなたも私から能力を搾取するの? そんな非難めいた言葉が口をついて出そうになり、アルから目を逸らした私は爪が食い込むほど拳を握りしめる。
「シア、説得力がないかもしれないんだけど」
アルは私の前に跪いて、握りしめていた私の両手を開かせ、アルの手を重ねた。触れた手の温かさに、私は顔を上げる。
「シアが聖女だって事は、本当は最初から知ってたよ。でも、俺は別に呪いを解きたくて、シアのそばにいたんじゃないよ。それだけは、できたら信じてくれたらうれしいな」
言葉を選びながら、とても困ったような、見ているこちらが泣き出したくなるような、そんな顔でアルは静かに、そういった。
『良い事をしていたらね、きっと誰かが見てくれているから、ね?』
不意に母の言葉を思い出し、私はアルと過ごした半年を思う。
(アルは、全部見ていてくれた。私が瘴気を払っていた事も、薬草を育てて傷薬をこっそり渡していた事も、全部)
私は、結局どこまでいっても"聖女"である自分から逃げられない。
だけど、ここで過ごした日々のおかげで随分自分を取り戻せたのも、やさぐれていた私を支えて安息をくれたのも、間違いなくアルだから。
「信じるわ」
騙されるなら、アルがいい。
「もう何も聞かないから、好きなだけいればいいわ」
私は手を離してアルの黒髪をそっと撫でる。アルは少し驚いた顔をしたけれど、されるがままで私に身を任せていた。
「今度は私がアルを守ってあげる。私、これでも結構強いのよ?」
紅茶色の瞳から今度は目を逸らす事なく私はそう笑った。
「だから、まぁここにいる間は、馬車馬のように働いてよ」
アルが聖女としての私を必要とするのなら、私はそれに応えよう。それが"これでいいの"と思える私の選択だった。
きっと狙われたのはあの時だけではないだろう。アルの体には痛々しい無数の古傷があった。その傷跡を思い出して、私は言葉を紡げなくなる。
「言えない事が多いけど、これだけは言える。俺は、"俺の聖女"を絶対に傷つけない」
紅茶色の瞳は、まっすぐに私を見つめて揺らがずに、そういった。
アルの言葉を聞いて私は急速に気持ちが冷めていく。
結局、必要なのは私自身《セリシア》じゃなくて、聖女なのかとなんだか泣きたい気持ちになった。
アルだけは、聖女なんて関係なく私と居てくれたのではないかと、勝手に期待をして、それが勘違いだったって気づいただけなのに。
"私"なんてただの孤児で、"聖女様"でなければ誰も見向きもしない存在なんて、知っていたのに馬鹿みたい。
「事情は話せないけど、ここに置いてくれるなら、俺のこと好きにしていいよ?」
そう言ってアルは対価に自分自身を差し出す。
『この土地は大体訳ありさんばかりが流れてくるんですよ〜』
そう言ったシェイナの言葉を思い出す。
逃げ出した聖女に、追われている魔族。ホント、その通りだわ。
「……そう。でも、アルの目的が呪いを解く事で、そのために聖女の力が必要だったなら、勇者に居所がばれて追われるかもしれないリスクを背負ってまで、ここにいるメリットなんて正直ないんじゃないの?」
目的ならもう果たしたでしょ? それとも、あなたも私から能力を搾取するの? そんな非難めいた言葉が口をついて出そうになり、アルから目を逸らした私は爪が食い込むほど拳を握りしめる。
「シア、説得力がないかもしれないんだけど」
アルは私の前に跪いて、握りしめていた私の両手を開かせ、アルの手を重ねた。触れた手の温かさに、私は顔を上げる。
「シアが聖女だって事は、本当は最初から知ってたよ。でも、俺は別に呪いを解きたくて、シアのそばにいたんじゃないよ。それだけは、できたら信じてくれたらうれしいな」
言葉を選びながら、とても困ったような、見ているこちらが泣き出したくなるような、そんな顔でアルは静かに、そういった。
『良い事をしていたらね、きっと誰かが見てくれているから、ね?』
不意に母の言葉を思い出し、私はアルと過ごした半年を思う。
(アルは、全部見ていてくれた。私が瘴気を払っていた事も、薬草を育てて傷薬をこっそり渡していた事も、全部)
私は、結局どこまでいっても"聖女"である自分から逃げられない。
だけど、ここで過ごした日々のおかげで随分自分を取り戻せたのも、やさぐれていた私を支えて安息をくれたのも、間違いなくアルだから。
「信じるわ」
騙されるなら、アルがいい。
「もう何も聞かないから、好きなだけいればいいわ」
私は手を離してアルの黒髪をそっと撫でる。アルは少し驚いた顔をしたけれど、されるがままで私に身を任せていた。
「今度は私がアルを守ってあげる。私、これでも結構強いのよ?」
紅茶色の瞳から今度は目を逸らす事なく私はそう笑った。
「だから、まぁここにいる間は、馬車馬のように働いてよ」
アルが聖女としての私を必要とするのなら、私はそれに応えよう。それが"これでいいの"と思える私の選択だった。