【コミカライズ企画進行中】捨てられ聖女は働かないっ!〜追放されたので念願のスローライフはじめます〜
「それで用件は?」

 早く帰りたいんだけど、とノエルのことなど興味ないと言わんばかりの態度で、アルは問う。

「同族殺しの先代魔王アルバート・ベルク、という名に聞き覚えは?」

 そんなアルの態度など一切気にする様子を見せず、ノエルは淡々と静かにアルを見据えて尋ねた。

「そんなまどろっこしい聞き方せずに、本人ですか? って聞けばいいのに。人間って奴はどうして寿命が短いくせに遠回りしたがるのか」

 恍惚と紅く光る目を瞬かせたアルは、おかしそうにそう言って肩をすくめた。

「ああ、でもシアには内緒ね? 俺の聖女は俺の正体を知らないし、今のところ教えるつもりもないから」

 しーっと人差し指を唇に当てて小首を傾げてそういった。細められた目は笑ってなどおらず、お願いというよりも脅しに近い。
 否定されなかったその正体に息を飲んだノエルは、剣を構える。

「"俺の聖女"だと? セリシアをどうする気だ?」

「勇者とやり合う気は、とりあえず今はないから、それしまってくれる?」

 アルはそれを見ながら呆れたように眉を顰め、両手を上げて敵意が無いことを示すと、シアから人を襲うなと強く言われているんだとため息をつく。

「俺は、俺の聖女を傷つけないし、俺の聖女の命令に逆らえない。そう先代の聖女と約束している」

「……先代聖女って、何十年前の話だよ!?」

「さぁ? 人間の時間軸で生きてないから詳細は分かんないけど。100年かそこらじゃない? 多分」

 アルは昔を懐かしむように目を細め、少し寂しげに笑う。目を閉じて、次に開いた時には元の紅茶色の瞳に戻っていた。

「さっきの質問の答えだけど、別にどうもしないよ。強いて言えば、シアがスローライフ? って言うのを送りたいらしいからそれをサポートするくらいで。君が心配するような事は起きない。だから、見逃してくれないか?」

「そんな事、信じられるわけがないっ」

 魔族の手によって沢山の人間が殺された。それは何百年も昔の御伽話の世界なんかの出来事ではなくて、ほんの数年前起きた現実で。その被害者の中には、ノエルの親しい友も居た。

「お前たち魔族は、いつだって人間から奪ってきたくせに」

 自分、というよりも魔族全体的に向けられているかのような憎悪を感じながらアルはそうだよね、と小さく呟いた。
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