【コミカライズ企画進行中】捨てられ聖女は働かないっ!〜追放されたので念願のスローライフはじめます〜
「……一体、何杯お茶を飲めばコレが治るっていうの? 第一、その手じゃコップを持つのも大変でしょ」
私なら確実に治せる手段があって、効果も実証済みだ。私の個人的な願望はとりあえず横に置いて、どうしてもアルの怪我を今すぐ治してあげたいと、素直にそう思った。
「……すぐは無理だけど、数日もすれば治るから。手も動くし、コップくらい持てる」
「1回も2回も大して変わらないんだから、大人しく我慢しときなさいよ」
強情なアルに私はやや苛立って、そう捲し立てる。
「そこまで緊急性高くないから」
「緊急性高いに決まってるでしょ!? こんな手じゃ私の夕飯作ってもらえないじゃない。今日はアルの当番でしょ?」
「シア普通に自炊できるよね!? そこはシアが作ってくれたらいいんじゃないかな」
「嫌よ。私は今日アルのハンバーグ食べる気満々なんだから。人工呼吸と一緒だって言ったでしょ? それが嫌なら犬にでも噛まれたと思って諦めなさいよ」
「ハンバーグって、そんなもののために安売りしないの。大体人工呼吸ってシアした事あるの?」
アルにとってこそたいした事ではないだろうにここまで拒否されると流石に凹む。
「した事もされた事もあるわよ。大体みんな川で溺れながら泳ぎを身につけるものでしょ!? 孤児院の子達を助けた回数なんて両手の指じゃ足らないわ」
ここまで来たら引いてやるものかと意地もあって、私は自分の経歴を晒す。
「大体、アルは気にしすぎよ。川で溺れてたらシェイナでもリトでも私は助ける。なんなら勇者だろうが大賢者だろうが必要なら助けるわね」
まぁ、その場合は回復魔法かけますけどねとは言わずに、今更こんな事くらいで動じないと言い切った。
「……つまり、シアは人助けなら誰とでもすると」
「ええ、そうよ」
嘘も方便とばかりに全力で頷いた私は、
「だから、アルの怪我も治させてよ」
そう言って懇願した。
長い沈黙のあと、息を吐き出すついでのように、
「もう、勝手にして」
とアルは諦めたような声でそう言って折れた。
「えっと、じゃあ失礼して」
そう言ってアルに声をかけたけれど、紅茶色の瞳はマジマジと私を見つめる。
「目、閉じてくれない?」
強引に了承を取ったとはいえ、流石にガン見されると気まずさが募る私はアルにそう頼む。
「慣れてるんじゃなかったの?」
「普段するのは意識のない相手なので」
人工呼吸ってそういうものでしょ? と私が言うと、おかしそうに肩を震わせて笑った後、アルは素直に目を閉じた。
(改めて見ても、整った顔立ち。まつ毛長いな)
アルに見るなと目を閉じさせたのに、私はマジマジとその顔を見つめる。
素直に待っているアルが可愛くて、ああやっぱりこのヒトが好きだなとそんな思いが募って最低な自分に胸が痛んだ。
私は目を閉じて呼吸を整える。
(コレはあくまでヒト助け。邪な考え、ダメ絶対)
目を開けた私は、アルの頬に手を触れてゆっくりと近づく。
(どうか、アルの怪我が全部治りますように)
私はそう祈って、アルに口付けた。
ほんの数秒触れて、唇を離した瞬間、
「足りない」
と、声が聞こえそのままアルから口付けられた。驚いたのは一瞬で、まるで自分が食べられているかのような、アルからのキスがあまりに気持ちが良くて、私はされるがまま何度もそれに応じていた。
息が苦しくなって、頭がぼんやりしてきた頃名残惜しそうに離された瞬間、私はぐったりと倒れ、アルに受け止められる。
「神気抜きすぎちゃったかな」
(……ああ、足らないって、神気がか。……満月じゃ、ないから?)
確かに少し身体がダルい気がして、それを言い訳に私はアルに身を寄せる。
(キス、したらないのかと思ったなんて絶対言えない。そんな事、あるわけないのに)
こんな時に邪な事を考えてしまう私はやっぱり聖職者に向いていない。
何も言わないアルはそのまま私の事を抱きしめて優しい手つきで何度も髪を撫でる。
その感覚とアルの体温があまりに心地よくて、そのまま眠ってしまった私が、アルの怪我が治った事を確認できたのも、アルお手製のハンバーグにありつけたのも翌日の事だった。
私なら確実に治せる手段があって、効果も実証済みだ。私の個人的な願望はとりあえず横に置いて、どうしてもアルの怪我を今すぐ治してあげたいと、素直にそう思った。
「……すぐは無理だけど、数日もすれば治るから。手も動くし、コップくらい持てる」
「1回も2回も大して変わらないんだから、大人しく我慢しときなさいよ」
強情なアルに私はやや苛立って、そう捲し立てる。
「そこまで緊急性高くないから」
「緊急性高いに決まってるでしょ!? こんな手じゃ私の夕飯作ってもらえないじゃない。今日はアルの当番でしょ?」
「シア普通に自炊できるよね!? そこはシアが作ってくれたらいいんじゃないかな」
「嫌よ。私は今日アルのハンバーグ食べる気満々なんだから。人工呼吸と一緒だって言ったでしょ? それが嫌なら犬にでも噛まれたと思って諦めなさいよ」
「ハンバーグって、そんなもののために安売りしないの。大体人工呼吸ってシアした事あるの?」
アルにとってこそたいした事ではないだろうにここまで拒否されると流石に凹む。
「した事もされた事もあるわよ。大体みんな川で溺れながら泳ぎを身につけるものでしょ!? 孤児院の子達を助けた回数なんて両手の指じゃ足らないわ」
ここまで来たら引いてやるものかと意地もあって、私は自分の経歴を晒す。
「大体、アルは気にしすぎよ。川で溺れてたらシェイナでもリトでも私は助ける。なんなら勇者だろうが大賢者だろうが必要なら助けるわね」
まぁ、その場合は回復魔法かけますけどねとは言わずに、今更こんな事くらいで動じないと言い切った。
「……つまり、シアは人助けなら誰とでもすると」
「ええ、そうよ」
嘘も方便とばかりに全力で頷いた私は、
「だから、アルの怪我も治させてよ」
そう言って懇願した。
長い沈黙のあと、息を吐き出すついでのように、
「もう、勝手にして」
とアルは諦めたような声でそう言って折れた。
「えっと、じゃあ失礼して」
そう言ってアルに声をかけたけれど、紅茶色の瞳はマジマジと私を見つめる。
「目、閉じてくれない?」
強引に了承を取ったとはいえ、流石にガン見されると気まずさが募る私はアルにそう頼む。
「慣れてるんじゃなかったの?」
「普段するのは意識のない相手なので」
人工呼吸ってそういうものでしょ? と私が言うと、おかしそうに肩を震わせて笑った後、アルは素直に目を閉じた。
(改めて見ても、整った顔立ち。まつ毛長いな)
アルに見るなと目を閉じさせたのに、私はマジマジとその顔を見つめる。
素直に待っているアルが可愛くて、ああやっぱりこのヒトが好きだなとそんな思いが募って最低な自分に胸が痛んだ。
私は目を閉じて呼吸を整える。
(コレはあくまでヒト助け。邪な考え、ダメ絶対)
目を開けた私は、アルの頬に手を触れてゆっくりと近づく。
(どうか、アルの怪我が全部治りますように)
私はそう祈って、アルに口付けた。
ほんの数秒触れて、唇を離した瞬間、
「足りない」
と、声が聞こえそのままアルから口付けられた。驚いたのは一瞬で、まるで自分が食べられているかのような、アルからのキスがあまりに気持ちが良くて、私はされるがまま何度もそれに応じていた。
息が苦しくなって、頭がぼんやりしてきた頃名残惜しそうに離された瞬間、私はぐったりと倒れ、アルに受け止められる。
「神気抜きすぎちゃったかな」
(……ああ、足らないって、神気がか。……満月じゃ、ないから?)
確かに少し身体がダルい気がして、それを言い訳に私はアルに身を寄せる。
(キス、したらないのかと思ったなんて絶対言えない。そんな事、あるわけないのに)
こんな時に邪な事を考えてしまう私はやっぱり聖職者に向いていない。
何も言わないアルはそのまま私の事を抱きしめて優しい手つきで何度も髪を撫でる。
その感覚とアルの体温があまりに心地よくて、そのまま眠ってしまった私が、アルの怪我が治った事を確認できたのも、アルお手製のハンバーグにありつけたのも翌日の事だった。