【コミカライズ企画進行中】捨てられ聖女は働かないっ!〜追放されたので念願のスローライフはじめます〜
30.その聖女、風邪をひく。
風邪をひいた。朝晩が冷え込むようになり、湖の温度も冷たくなっているこの季節に、寒中水泳をやらかしたのだ。その上家路に着くまで、冷たい外気に晒されたし、仕方ないとは思う。
「納得いかない」
私はベッドの上でそう不満を漏らす。
「まだ言ってるの? 魔族はヒトより丈夫なんだから、あれくらいじゃ風邪なんてひかない。聖女を治してくれる治癒師はここにはいないんだから、自力で治すしかないよ」
私の具合を見に来たアルは、開口一番に不満を訴えた私に苦笑を漏らす。
弱って魔力が落ちていなければ自分で回復魔法かけられたのに、残念だ。まぁ緊急性が高いわけではないし、自力で治さないと免疫落ちるからやらないけど。
でも、私の不満はそこじゃない。
「なんでラウル様が釣り大会優勝してるのよ!!」
あの後、びしょ濡れの私達はそのままラウルと別れたので、釣り大会の優勝者がラウルである事を知ったのは翌日のことなのだが、私はこの結末に未だに納得できないでいる。
「まぁ、確かに罠張って釣り上げてはいけないって言うルールは設けてなかったしね。捕獲量はダントツだったし」
私と枯毒竜の調査、捕獲に行っていたラウルは、事前に釣りエリアに魔法で魚向けの罠を仕掛けていたらしい。
そして終了間際に引き上げたそれには大量の魚が入っており、それまでの順位をひっくり返して優勝を果たした。
「もう釣りじゃなくてただの漁じゃん!! 自力で釣りなさいよ」
「まぁ、魔法使ったらいけないって規定もなかったし、魔法も実力と言われれば確かにそうだし」
「そんなの想定してないわ!! 参加者から冒険者除外した意味!!」
詰めの甘さを指摘されればそうかもしれないが、今回の催しは一般向けなのだ。そもそも魔法の介入なんて想定するはずがない。
私だって真面目に釣るつもりだったのに。
「まぁ、アイツが指定した賞品以外はちゃんと参加者に行き渡ってるし、シア以外からの不満は出てないんだから諦めなよ」
そう言って私の髪をくしゃくしゃっと撫でるとコツンと私と額を合わせる。
「まだ熱引かないね。今日は大人しくしときなよ」
そう言ってベッドでの安静を勧められる。
いつもより私の体温が高いのは体感で分かる。
「いつも思うんだけど、これ本当に熱あるか分かる? 絶対手の方が分かるっていうか体温計使った方が確実じゃない?」
近づくと感染るしと私は訝しげに眉を顰める。治療院に行っていた時も、たまにこんなことを頼む人がいたけれど、私にはこれがいまいち理解できない。
「んーまぁ、ほとんどはサービスかな?」
「それは誰得のサービスよ」
「ははっ、それだけ言い返せるなら、もう大丈夫だろうけど、とりあえず今日は大人しくね」
アルは大人しくを強調して、私に2度目の念押しをする。
「……そんなに念押しするくらい心配なのに、そんな弱った私を置いてアルはデートに出かけるのね」
すっかり出かける支度が整ったアルの姿を一瞥して、私はわざと拗ねた口調で駄々をこねる。
「"賞品"だからね」
クスッと笑ったアルは、
「さっさと精算してくるよ。なるべく早く戻るから」
私の頭にポンポンと軽く手を置いて、優しい口調でそう言った。
「いいなぁ、ラウル様」
ラウルが優勝して指定したのはアルとのデート券だった。
「何? シアも俺とデートしたかった?」
揶揄うようにそう言ったアルの袖を引いて、
「したいよ。私も、アルとデート」
と私は短く希望を伝える。
紅茶色の瞳は驚いたように瞬いた後、とても優しく笑って、
「じゃあ、元気になったらデートしよう。どこに行きたいか考えておいて」
そう言って私から離れた。
「アル、ラウル様はノエルと違っていきなり襲ってくることはないはずだけど、気をつけて」
アルに手を出さないとラウルは約束してくれたけど、念の為アルにそう伝える。
「大丈夫、少し話すだけだと思うから」
アルは私の方を振り向かず、そんな言葉を残して静かに部屋を出て行った。
「納得いかない」
私はベッドの上でそう不満を漏らす。
「まだ言ってるの? 魔族はヒトより丈夫なんだから、あれくらいじゃ風邪なんてひかない。聖女を治してくれる治癒師はここにはいないんだから、自力で治すしかないよ」
私の具合を見に来たアルは、開口一番に不満を訴えた私に苦笑を漏らす。
弱って魔力が落ちていなければ自分で回復魔法かけられたのに、残念だ。まぁ緊急性が高いわけではないし、自力で治さないと免疫落ちるからやらないけど。
でも、私の不満はそこじゃない。
「なんでラウル様が釣り大会優勝してるのよ!!」
あの後、びしょ濡れの私達はそのままラウルと別れたので、釣り大会の優勝者がラウルである事を知ったのは翌日のことなのだが、私はこの結末に未だに納得できないでいる。
「まぁ、確かに罠張って釣り上げてはいけないって言うルールは設けてなかったしね。捕獲量はダントツだったし」
私と枯毒竜の調査、捕獲に行っていたラウルは、事前に釣りエリアに魔法で魚向けの罠を仕掛けていたらしい。
そして終了間際に引き上げたそれには大量の魚が入っており、それまでの順位をひっくり返して優勝を果たした。
「もう釣りじゃなくてただの漁じゃん!! 自力で釣りなさいよ」
「まぁ、魔法使ったらいけないって規定もなかったし、魔法も実力と言われれば確かにそうだし」
「そんなの想定してないわ!! 参加者から冒険者除外した意味!!」
詰めの甘さを指摘されればそうかもしれないが、今回の催しは一般向けなのだ。そもそも魔法の介入なんて想定するはずがない。
私だって真面目に釣るつもりだったのに。
「まぁ、アイツが指定した賞品以外はちゃんと参加者に行き渡ってるし、シア以外からの不満は出てないんだから諦めなよ」
そう言って私の髪をくしゃくしゃっと撫でるとコツンと私と額を合わせる。
「まだ熱引かないね。今日は大人しくしときなよ」
そう言ってベッドでの安静を勧められる。
いつもより私の体温が高いのは体感で分かる。
「いつも思うんだけど、これ本当に熱あるか分かる? 絶対手の方が分かるっていうか体温計使った方が確実じゃない?」
近づくと感染るしと私は訝しげに眉を顰める。治療院に行っていた時も、たまにこんなことを頼む人がいたけれど、私にはこれがいまいち理解できない。
「んーまぁ、ほとんどはサービスかな?」
「それは誰得のサービスよ」
「ははっ、それだけ言い返せるなら、もう大丈夫だろうけど、とりあえず今日は大人しくね」
アルは大人しくを強調して、私に2度目の念押しをする。
「……そんなに念押しするくらい心配なのに、そんな弱った私を置いてアルはデートに出かけるのね」
すっかり出かける支度が整ったアルの姿を一瞥して、私はわざと拗ねた口調で駄々をこねる。
「"賞品"だからね」
クスッと笑ったアルは、
「さっさと精算してくるよ。なるべく早く戻るから」
私の頭にポンポンと軽く手を置いて、優しい口調でそう言った。
「いいなぁ、ラウル様」
ラウルが優勝して指定したのはアルとのデート券だった。
「何? シアも俺とデートしたかった?」
揶揄うようにそう言ったアルの袖を引いて、
「したいよ。私も、アルとデート」
と私は短く希望を伝える。
紅茶色の瞳は驚いたように瞬いた後、とても優しく笑って、
「じゃあ、元気になったらデートしよう。どこに行きたいか考えておいて」
そう言って私から離れた。
「アル、ラウル様はノエルと違っていきなり襲ってくることはないはずだけど、気をつけて」
アルに手を出さないとラウルは約束してくれたけど、念の為アルにそう伝える。
「大丈夫、少し話すだけだと思うから」
アルは私の方を振り向かず、そんな言葉を残して静かに部屋を出て行った。