【コミカライズ企画進行中】捨てられ聖女は働かないっ!〜追放されたので念願のスローライフはじめます〜
35.その聖女、狙われる。
季節が巡り、もうすぐ春がやってくる。
そんな事とは関係なく、新月の夜は否が応でもやってくる。
最後の一体を闇に葬って、アルは地面に膝をつく。
「……さすがに、キツイな」
もう随分と長い事、碌に魔力の素を取り込んでいない。体内に保有している魔力もいつ底が尽きるか分からない。
(瘴気が濃いとこ、この辺にはもうないしな)
それでもシアや町の住人を見ていると、瘴気を祓うのをやめて欲しいなんて言えるわけもなく、かと言ってこのままシアを放り出してどこかに行くこともできず、まだ大丈夫と自分の事を誤魔化す日々が続いていた。
「笑えないな、マジで」
アルは自分の指先に視線を落とす。
目を閉じて思い出すのは、小さなシアの体に牙を突き立てて彼女の魔力と神気を貪り喰らっていた魔族たちの姿。
「絶対、あんな風にはならない」
自分に言い聞かせるように、そうつぶやく。
それでも魔力が枯渇してくると、シアの魔力と神気に惹かれそうになる自分を自覚してぞっとする。
それが怖くてまともにシアの顔を見られず、距離を置いた。
「せめて、あっちと行き来できれば、マシだったのになぁ」
魔ノ国の方を向いて、どうにもならない事をつぶやく。
一度追放された者は、誰であれ招かれなければあの国へは入れない。
「まぁでも、あそこまで濃くなり過ぎた瘴気をこの状態で取り入れたら、身体が持たないかもだしなぁ。悩ましい」
そう独り言を呟いたアルは、気配を察して槍を構える。
「お探ししました、我が主」
そこには燕尾服を着た真っ黒な執事が立っていた。
「……迎えが遅い、クロード」
恭しく礼をした相手にアルは冷たく言い放つ。
「申し訳ございません。随分と、主の気が弱くなられていたので手間取りました」
クロードと呼ばれた青年は、これでも一生懸命探したんですが、とため息混じりに苦笑する。
「アルバート様、どうぞ魔ノ国へお戻りください」
そう言ってアルに入国のための封筒を差し出した。
「追放した俺を連れ戻すほど、ついに国が立ち行かなくなったか」
アルは淡々とした声で尋ねる。
「ええ、ズタボロですよ。勇者に討伐された魔王は強い者だけを絶対とした国政を敷き、国中蹂躙した上に、碌々瘴気の管理もしませんでしたから」
最初はそれを歓迎した国民も多くいたんですけどね、と頭痛でもするかのようにクロードは頭を押さえる。
「魔族こそが最強だ、などと宣っていたくせに、結局は勇者一行と全面戦争ののち討伐。国が荒れ放題になってようやく、あなたに帰ってきて欲しいという世論になりました。あなたが治めていた頃は、平和なんて退屈だ。魔王のくせに弱腰過ぎるとか文句言っていたくせに」
ようやく話がまとまりました、とため息混じりにクロードはそう話す。
「苦労をかけたな」
その光景が目に浮かぶようで、アルはため息を漏らす。
そんな事とは関係なく、新月の夜は否が応でもやってくる。
最後の一体を闇に葬って、アルは地面に膝をつく。
「……さすがに、キツイな」
もう随分と長い事、碌に魔力の素を取り込んでいない。体内に保有している魔力もいつ底が尽きるか分からない。
(瘴気が濃いとこ、この辺にはもうないしな)
それでもシアや町の住人を見ていると、瘴気を祓うのをやめて欲しいなんて言えるわけもなく、かと言ってこのままシアを放り出してどこかに行くこともできず、まだ大丈夫と自分の事を誤魔化す日々が続いていた。
「笑えないな、マジで」
アルは自分の指先に視線を落とす。
目を閉じて思い出すのは、小さなシアの体に牙を突き立てて彼女の魔力と神気を貪り喰らっていた魔族たちの姿。
「絶対、あんな風にはならない」
自分に言い聞かせるように、そうつぶやく。
それでも魔力が枯渇してくると、シアの魔力と神気に惹かれそうになる自分を自覚してぞっとする。
それが怖くてまともにシアの顔を見られず、距離を置いた。
「せめて、あっちと行き来できれば、マシだったのになぁ」
魔ノ国の方を向いて、どうにもならない事をつぶやく。
一度追放された者は、誰であれ招かれなければあの国へは入れない。
「まぁでも、あそこまで濃くなり過ぎた瘴気をこの状態で取り入れたら、身体が持たないかもだしなぁ。悩ましい」
そう独り言を呟いたアルは、気配を察して槍を構える。
「お探ししました、我が主」
そこには燕尾服を着た真っ黒な執事が立っていた。
「……迎えが遅い、クロード」
恭しく礼をした相手にアルは冷たく言い放つ。
「申し訳ございません。随分と、主の気が弱くなられていたので手間取りました」
クロードと呼ばれた青年は、これでも一生懸命探したんですが、とため息混じりに苦笑する。
「アルバート様、どうぞ魔ノ国へお戻りください」
そう言ってアルに入国のための封筒を差し出した。
「追放した俺を連れ戻すほど、ついに国が立ち行かなくなったか」
アルは淡々とした声で尋ねる。
「ええ、ズタボロですよ。勇者に討伐された魔王は強い者だけを絶対とした国政を敷き、国中蹂躙した上に、碌々瘴気の管理もしませんでしたから」
最初はそれを歓迎した国民も多くいたんですけどね、と頭痛でもするかのようにクロードは頭を押さえる。
「魔族こそが最強だ、などと宣っていたくせに、結局は勇者一行と全面戦争ののち討伐。国が荒れ放題になってようやく、あなたに帰ってきて欲しいという世論になりました。あなたが治めていた頃は、平和なんて退屈だ。魔王のくせに弱腰過ぎるとか文句言っていたくせに」
ようやく話がまとまりました、とため息混じりにクロードはそう話す。
「苦労をかけたな」
その光景が目に浮かぶようで、アルはため息を漏らす。