【コミカライズ企画進行中】捨てられ聖女は働かないっ!〜追放されたので念願のスローライフはじめます〜
「あなたが居なくなったあとの対応に比べれば、あなたを戻すための労力など苦労のうちにも入りません。みんな、王の帰還を心待ちにしています」
「……猶予は無さそうだな」
「ええ、できればこのままお戻り頂きたいくらいです」
クロードは大きく頷くが、
「でも、どうせなら聖女を喰らっては? 子どもの姿になるほどあなたの魔力を抑制させた呪いが消えたという事は、聖女をまた飼っているのでしょう?」
紅い目を光らせて、さも当然のようにそう言う。
「アルバート様、あなたも随分とズタボロではないですか。煮るなり焼くなり好きにしろと先代聖女から言われているのです。今こそ恩を返して貰う時では?」
「俺の聖女に指一本でも触れてみろ。喰い殺す」
アルはクロードに槍を向けて冷たく睨みつける。
「では、何のためにわざわざ囲っていたと言うのですか!? 共存共栄というのなら、魔力を喰らうくらい構わないでしょう? 何も命まで取れとは言いません。ただでさえ、あなたは敵が多いのですから、万全の状態で帰還して頂きたいのです」
そんな主人の態度に屈することなく、クロードはそう主張する。
「そんな事をせずとも、自分の国くらい治めてやる。春には戻る。準備をしておけ」
話は終わりだとばかりに物言いだけな家臣を遮り、アルは踵を返す。
「あなたの聖女は、たったその程度の慈悲すらくれないのですか? 散々、あなたに力を使わせて、護らせておいて。弱ったあなたに手も差し伸べないような、そんな」
「……知ったら、何を置いても自分のことを差し出すような子だから。何もさせたくないんだ」
立ち止まったアルは、振り返ることなくそう言った。
「これは俺のわがままだから、見逃して欲しい。必ず、戻るから」
先代聖女を匿っていた時も、小さなシアに会いに行っていた時も、ずっとクロードからはお小言を言われ続けている。
それでも最終的には折れてくれているのだから、今回もそうしてもらわなければ困る。
「……悪いな」
主人にそう言われてしまえば、もう言葉を紡ぐことはできず、クロードはお辞儀をしてその背を見送った。
家に帰ったアルはダイニングルームの灯りを見てほっとした。
テーブルの上にはいつものようにお茶と軽食が用意してあって、おかえりなさいとメモが置いてあった。
何度も机に伏してうたた寝をしていたシアに強めにベッドで寝るよう言い聞かせておいたので、今日はちゃんと自室で寝ているらしかった。
自分でベッドに行けと言っておいてなんだが、今日はシアの顔が見たかったななんて思った自分にアルは苦笑する。
お茶を注いで窓の外に目をやったアルは、シアと初めて出会った日のことを思い出す。
あの日は今日とは違い満月だったから、眩しいほどに明るくて、魔族であるアルにとっては神経がささくれ立つような夜だった。
「……猶予は無さそうだな」
「ええ、できればこのままお戻り頂きたいくらいです」
クロードは大きく頷くが、
「でも、どうせなら聖女を喰らっては? 子どもの姿になるほどあなたの魔力を抑制させた呪いが消えたという事は、聖女をまた飼っているのでしょう?」
紅い目を光らせて、さも当然のようにそう言う。
「アルバート様、あなたも随分とズタボロではないですか。煮るなり焼くなり好きにしろと先代聖女から言われているのです。今こそ恩を返して貰う時では?」
「俺の聖女に指一本でも触れてみろ。喰い殺す」
アルはクロードに槍を向けて冷たく睨みつける。
「では、何のためにわざわざ囲っていたと言うのですか!? 共存共栄というのなら、魔力を喰らうくらい構わないでしょう? 何も命まで取れとは言いません。ただでさえ、あなたは敵が多いのですから、万全の状態で帰還して頂きたいのです」
そんな主人の態度に屈することなく、クロードはそう主張する。
「そんな事をせずとも、自分の国くらい治めてやる。春には戻る。準備をしておけ」
話は終わりだとばかりに物言いだけな家臣を遮り、アルは踵を返す。
「あなたの聖女は、たったその程度の慈悲すらくれないのですか? 散々、あなたに力を使わせて、護らせておいて。弱ったあなたに手も差し伸べないような、そんな」
「……知ったら、何を置いても自分のことを差し出すような子だから。何もさせたくないんだ」
立ち止まったアルは、振り返ることなくそう言った。
「これは俺のわがままだから、見逃して欲しい。必ず、戻るから」
先代聖女を匿っていた時も、小さなシアに会いに行っていた時も、ずっとクロードからはお小言を言われ続けている。
それでも最終的には折れてくれているのだから、今回もそうしてもらわなければ困る。
「……悪いな」
主人にそう言われてしまえば、もう言葉を紡ぐことはできず、クロードはお辞儀をしてその背を見送った。
家に帰ったアルはダイニングルームの灯りを見てほっとした。
テーブルの上にはいつものようにお茶と軽食が用意してあって、おかえりなさいとメモが置いてあった。
何度も机に伏してうたた寝をしていたシアに強めにベッドで寝るよう言い聞かせておいたので、今日はちゃんと自室で寝ているらしかった。
自分でベッドに行けと言っておいてなんだが、今日はシアの顔が見たかったななんて思った自分にアルは苦笑する。
お茶を注いで窓の外に目をやったアルは、シアと初めて出会った日のことを思い出す。
あの日は今日とは違い満月だったから、眩しいほどに明るくて、魔族であるアルにとっては神経がささくれ立つような夜だった。