【コミカライズ企画進行中】捨てられ聖女は働かないっ!〜追放されたので念願のスローライフはじめます〜
36.その聖女、回想される。
先代聖女セイカ・エリアスとの約束の子が生まれたのは随分前に気づいていた。
セイカが死の間際に、呪いのように紡いだ誓約魔法。それによって強制的に繋がれた今代聖女と自分の絆。
だからといって、初めから聖女の子守りなどするつもりは正直なかった。
『全く、勝手で面倒な事をしてくれたものだ』
そう思う一方で、託されたセイカの子が無事ヒトの中で生きて、次代の聖女までその力が繋がれていたのなら、良かったと思う気持ちも確かにあった。
かつて抱き上げた事もあるセイカの子。その孫かひ孫かそれ以上かにあたるその子には何の情もなければ、義理もない。
それでも会いに行く理由は、セイカにかけられた誓約魔法の解除。その聖女に会うのはそれだけのつもりだった。
魔族として最も力が弱くなる満月の夜。
聖の力が満ちすぎて、瘴気も薄かったが、目的の子どもを見つけ出して近づくくらい、アルにとっては造作もないことだった。
「ふんふんふー♪ふふんふーん♪」
その子どもはやたらとご機嫌で、夜だというのにたった一人でフラフラと外を出歩いていた。
お世辞にも綺麗な身なりとは言えない格好で、二つに結んだ薄桃色の髪を風にはためかせて。
いずれ力が満ちれば、あの髪もセイカのように濃く染まるのだろうか? そんな事を考えながら後をつけていた。
『アル、あなた誰かを愛した事がないでしょう?』
呆れたような声で、随分と大きくなった腹をさすりながらセイカはそう言っていた。
『破壊し、奪い、相手を屈服させるだけでは、きっとずっとあなたの心は飢えたままよ』
その時は多分、うるさい、放っておけと答えたはずだ。
だけどセイカは聞く耳なんてもたなくて、いつも通り楽しげに話し続けていた。
『あなた、退屈で死にそうって顔してる。せっかくの長い生を持て余しているなら、一度くらい、愛し、慈しみ、育て、愛される喜びを知ってはどう?』
余計なお世話だ、と言ったのにセイカは肩をすくめただけだった。
『普通の人間は魔族とは居られないから、そうね。次に生まれる聖女をあげる』
さも、名案だと言いたげに彼女はそう言って、
『取引しましょう。次に生まれる、希望をあげるわ。だから、この子の事を守って欲しい。聖女の血を引くこの子をどうか、私の実家にも、祖国の王家にも渡さないで。ヒトの中に隠してあげて』
パチンと手を叩いて勝手な事を願う。
天敵なんかいるか、と答えたら、
『あら、聖女の神気は魔族にとってご馳走でしょ? 次代の聖女の事が気に入らなければ煮るなり焼くなり好きにして、喰らえばいいわ。小さいうちなら簡単なはずよ』
と、とても綺麗な顔で笑ってえげつない事を言う。
本当に喰ってやるぞ、と脅すように凄んだ自分に怯える事なく、セイカは頭を撫でてくる。
『賭けてもいいけど、アルにそんなことはできないわ。だって、あなた自分で思っているよりずっと世話焼きでお節介で放っておけないタチだもの』
押しかけてきた身重の聖女一人追い出せないくらいと、クスッと笑って自分の事を撫でるセイカの腕は随分細く痩せており、彼女の先が長くないことが嫌でも思い知らされた。
『だから、そんな顔をしないで、生きてみなさいよ。あなたの聖女に会えるまで』
また眉間に皺が寄っているわよ? とセイカは白い指で額を撫でて微笑みながらそう言った彼女が息を引き取ったのは、それから数ヶ月後の事だった。
セイカが死の間際に、呪いのように紡いだ誓約魔法。それによって強制的に繋がれた今代聖女と自分の絆。
だからといって、初めから聖女の子守りなどするつもりは正直なかった。
『全く、勝手で面倒な事をしてくれたものだ』
そう思う一方で、託されたセイカの子が無事ヒトの中で生きて、次代の聖女までその力が繋がれていたのなら、良かったと思う気持ちも確かにあった。
かつて抱き上げた事もあるセイカの子。その孫かひ孫かそれ以上かにあたるその子には何の情もなければ、義理もない。
それでも会いに行く理由は、セイカにかけられた誓約魔法の解除。その聖女に会うのはそれだけのつもりだった。
魔族として最も力が弱くなる満月の夜。
聖の力が満ちすぎて、瘴気も薄かったが、目的の子どもを見つけ出して近づくくらい、アルにとっては造作もないことだった。
「ふんふんふー♪ふふんふーん♪」
その子どもはやたらとご機嫌で、夜だというのにたった一人でフラフラと外を出歩いていた。
お世辞にも綺麗な身なりとは言えない格好で、二つに結んだ薄桃色の髪を風にはためかせて。
いずれ力が満ちれば、あの髪もセイカのように濃く染まるのだろうか? そんな事を考えながら後をつけていた。
『アル、あなた誰かを愛した事がないでしょう?』
呆れたような声で、随分と大きくなった腹をさすりながらセイカはそう言っていた。
『破壊し、奪い、相手を屈服させるだけでは、きっとずっとあなたの心は飢えたままよ』
その時は多分、うるさい、放っておけと答えたはずだ。
だけどセイカは聞く耳なんてもたなくて、いつも通り楽しげに話し続けていた。
『あなた、退屈で死にそうって顔してる。せっかくの長い生を持て余しているなら、一度くらい、愛し、慈しみ、育て、愛される喜びを知ってはどう?』
余計なお世話だ、と言ったのにセイカは肩をすくめただけだった。
『普通の人間は魔族とは居られないから、そうね。次に生まれる聖女をあげる』
さも、名案だと言いたげに彼女はそう言って、
『取引しましょう。次に生まれる、希望をあげるわ。だから、この子の事を守って欲しい。聖女の血を引くこの子をどうか、私の実家にも、祖国の王家にも渡さないで。ヒトの中に隠してあげて』
パチンと手を叩いて勝手な事を願う。
天敵なんかいるか、と答えたら、
『あら、聖女の神気は魔族にとってご馳走でしょ? 次代の聖女の事が気に入らなければ煮るなり焼くなり好きにして、喰らえばいいわ。小さいうちなら簡単なはずよ』
と、とても綺麗な顔で笑ってえげつない事を言う。
本当に喰ってやるぞ、と脅すように凄んだ自分に怯える事なく、セイカは頭を撫でてくる。
『賭けてもいいけど、アルにそんなことはできないわ。だって、あなた自分で思っているよりずっと世話焼きでお節介で放っておけないタチだもの』
押しかけてきた身重の聖女一人追い出せないくらいと、クスッと笑って自分の事を撫でるセイカの腕は随分細く痩せており、彼女の先が長くないことが嫌でも思い知らされた。
『だから、そんな顔をしないで、生きてみなさいよ。あなたの聖女に会えるまで』
また眉間に皺が寄っているわよ? とセイカは白い指で額を撫でて微笑みながらそう言った彼女が息を引き取ったのは、それから数ヶ月後の事だった。