【コミカライズ企画進行中】捨てられ聖女は働かないっ!〜追放されたので念願のスローライフはじめます〜
 今夜はやたらと先代聖女のことを思い出す。それは、彼女の血を引く聖女が、すぐそこにいるせいなのかもしれない。

(だからって、アレを慈しんで育てろって? バカな事言うなよ)

 そんな感情、自分の中にあるとは到底思えない。ヒトの子なんかと関わって、一体何の得があると言うのか。
 セイカの血を引いていると思えば、100歩譲って懐かしさを感じなくもないが、もともと不得意とする子どもの事をかわいいなどと思うはずもなく、まして愛情など湧くはずもない。
 さっさと捕まえて、誓約魔法を解除しよう。
 そう思った時、目的なくふらふらと歩いていたように見えた少女が、急に走り出したかと思うと橋の欄干の上に登って振り返り、こちらの方をじっと見た。
 満月を背負ったその出で立ちが、ひどく神秘的なものに見えて、息をのんだ。
 初めて対峙した今代の聖女はふわりと笑って、そのまま橋から背中向きに落ちた。

「バカ! 何やって!!」

 慌てて手を伸ばして捕まえた自分に向かって、

「さようなら、変質者(ストーカー)さん」

 おもちゃのピストルを近距離で容赦なく撃ってきた。おかげで顔面に直撃した。
 しかも本人は無自覚なのだろうが、そのおもちゃの弾にはガッツリ聖女の力が込められていて、保持していた魔力が一瞬にして持っていかれた。
 何とか掴んだ手を離さず後ろに倒れて少女も自分も橋から落ちずに済んだが、打ちつけた背中と頭、顔面に当たった銃弾の痛みと魔力切れの脱力感でアルの意識は薄れていく。

『神秘的? 前言撤回。ただのクソガキだった』

 先代聖女にふざけんなと舌打ちしたところで、アルは意識を手放した。

 あんなの(手癖の悪いガキ)を相手にするなんて冗談じゃない、早く誓約魔法を解除しなければ。
 飛んだ意識が浮上し、はっきりするにしたがって、確かにそう思った。

「あ、起きた」

 自分の事を覗き込んでいた碧眼と目が合って、勢いよく起き上がるとポタリと何かが落ちてきた。
 拾い上げたそれは、濡らされた布で額と髪に湿っぽさを感じる。どうやら介抱されていたらしい。

「……自分でやっつけた相手介抱とか、何なのお前?」
 
 礼など絶対言わんとばかりに不機嫌を全面に押し出した声が少女の耳に届く。

「だってあなた、私の事を離さなかったんだもの」

 身に覚えがないとばかりに眉根を寄せるそのヒトに、

「ホントは泳いで逃げるつもりだったのに、あなた、私を庇うんだもん。このまま死んだら目覚めが悪いじゃない」

 満面の笑顔を見せたその少女はそう言った。アルが少し見直しかけたところで、

「それにもし死んだら金品奪って売却しようと思って! 落ちてるもの拾わないなんて勿体ない」

 屈託なくそう言った。残念、とにこやかに笑う少女は、やはりどうしようもなく手癖の悪い子どもらしかった。

(今日、解除するのは無理だな。碌に力が入らん)

 初回は誓約の解除を諦めざるを得なかった。
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