【コミカライズ企画進行中】捨てられ聖女は働かないっ!〜追放されたので念願のスローライフはじめます〜
『条件をつけるわ』
と、先代聖女は弱々しくそう言った。
『満月の夜。一番聖女の力が強くなる日以外は解除できない。それくらいのハンデはくれてもいいでしょ? あなたは全魔族の頂点に君臨しているのだから』
コレで、本当に最期。
そう言った彼女の中にはもう、聖女の力も魔力も残っていなかった。
アルは知らなかった。身重の先代聖女が押しかけて来た日から、昨日に至るまでずっと魔族のために、彼女が自身の聖女の力を使い続けていたという事を。
そして、それが余計に彼女の寿命を縮めたという事も。
『そんな顔をしないで。ただの宿代よ。力は、使い方次第だわ。私がいなくなった後も魔族と人が争わないで済む事を祈ってる」
先代聖女はそっと眠る我が子の頬を撫でる。その顔は慈愛に満ちていて、聖女と呼ばれるに相応しい光景だった。
『ねぇ、アル。この子の事、お願いね』
だけどアルには理解できなかった。最期のその瞬間まで、他人の事だけを考えていた彼女のその生き方が。
ただ、魔族である自分の事を"友人"と呼んだ彼女の目が2度と開かれることはないのだと知って、無性に胸が詰まった。
ヒトはこんな時感じるこの感情をなんと呼ぶんだろうとぼんやり考えたその答えは、未だに得られていなかった。
「……で、お前は勝手に何やってんの?」
「お前じゃなくてセリシア。アルは人の名前も覚えられないの?」
今日こそは、そう思って何度目の夜を迎えただろう?
アレから満月の度にやってくる自分の事をどう解釈したのかは知らないが、今代聖女は自分の事を見かけると楽しそうに寄ってくるようになった。
餌付けが効いたらしいとぼんやり考えていたアルに、シアは更に花を追加する。
「……なんか、元気ないみたいだったから」
お花あげるとアルの頭に花びらを降らす。
「何? 慰めてんの?」
「笑えばいいのに。せっかくきれいな顔してるんだから」
笑うといい事いっぱいあるのよ? とシアは得意げにそう話す。
「楽しくもないのに笑えるか。第一、いい事って何だよ」
「んーパンの耳おまけしてもらえるとか! このお花もお嬢ちゃん可愛いから特別ってお庭に入れてもらえたからここにあるのよ」
「へぇ、それはそれは。そんな貴重な花を俺にくれると」
降って来た花びらを掌に乗せたアルは、つまらなそうにそう言った。
アルお花似合うね、と笑ったシアは地面に落ちた花びらを拾う。
「いっぱい花びら貰ったけど、砂糖ないからジャムにできないし。いい匂いだからポプリにでもしたらいいわ。売れるから」
「食べる用かよ。そして売るのかよ。花くらい普通に愛でらんないのか?」
そう呆れたように口にするアルにシアは同じくらい呆れた口調で言い返す。
「アルは食べる事に苦労した事がないのね。お金大事。愛でてくれる人に売った方がお腹も膨れる」
シアにそう言われ、彼女の事をまじまじと見返す。痩せすぎなくらい痩せていて、年齢のわりに発育状態も良くない。
「……売り物撒くなよ」
「いいの。今はアルの事元気にする方が大事だから」
きれいなものを見ると幸せになるんだって、とシアは笑う。
「……何で?」
「わかんないけど、なんかとっても寂しそうに見えたから」
シアはフードの上からアルの頭に花冠を乗せる。そしていい子いい子と背伸びをして頭を撫でた。
(寂しい? 俺が?)
馬鹿らしいと嘲笑してしまいたかったのに、何故だかその言葉が引っかかる。
勝手に無遠慮に触ってくるその小さな手を振り払ってしまいたいのに、そうできなかったアルはされるがままただそうしてそこにいた。
と、先代聖女は弱々しくそう言った。
『満月の夜。一番聖女の力が強くなる日以外は解除できない。それくらいのハンデはくれてもいいでしょ? あなたは全魔族の頂点に君臨しているのだから』
コレで、本当に最期。
そう言った彼女の中にはもう、聖女の力も魔力も残っていなかった。
アルは知らなかった。身重の先代聖女が押しかけて来た日から、昨日に至るまでずっと魔族のために、彼女が自身の聖女の力を使い続けていたという事を。
そして、それが余計に彼女の寿命を縮めたという事も。
『そんな顔をしないで。ただの宿代よ。力は、使い方次第だわ。私がいなくなった後も魔族と人が争わないで済む事を祈ってる」
先代聖女はそっと眠る我が子の頬を撫でる。その顔は慈愛に満ちていて、聖女と呼ばれるに相応しい光景だった。
『ねぇ、アル。この子の事、お願いね』
だけどアルには理解できなかった。最期のその瞬間まで、他人の事だけを考えていた彼女のその生き方が。
ただ、魔族である自分の事を"友人"と呼んだ彼女の目が2度と開かれることはないのだと知って、無性に胸が詰まった。
ヒトはこんな時感じるこの感情をなんと呼ぶんだろうとぼんやり考えたその答えは、未だに得られていなかった。
「……で、お前は勝手に何やってんの?」
「お前じゃなくてセリシア。アルは人の名前も覚えられないの?」
今日こそは、そう思って何度目の夜を迎えただろう?
アレから満月の度にやってくる自分の事をどう解釈したのかは知らないが、今代聖女は自分の事を見かけると楽しそうに寄ってくるようになった。
餌付けが効いたらしいとぼんやり考えていたアルに、シアは更に花を追加する。
「……なんか、元気ないみたいだったから」
お花あげるとアルの頭に花びらを降らす。
「何? 慰めてんの?」
「笑えばいいのに。せっかくきれいな顔してるんだから」
笑うといい事いっぱいあるのよ? とシアは得意げにそう話す。
「楽しくもないのに笑えるか。第一、いい事って何だよ」
「んーパンの耳おまけしてもらえるとか! このお花もお嬢ちゃん可愛いから特別ってお庭に入れてもらえたからここにあるのよ」
「へぇ、それはそれは。そんな貴重な花を俺にくれると」
降って来た花びらを掌に乗せたアルは、つまらなそうにそう言った。
アルお花似合うね、と笑ったシアは地面に落ちた花びらを拾う。
「いっぱい花びら貰ったけど、砂糖ないからジャムにできないし。いい匂いだからポプリにでもしたらいいわ。売れるから」
「食べる用かよ。そして売るのかよ。花くらい普通に愛でらんないのか?」
そう呆れたように口にするアルにシアは同じくらい呆れた口調で言い返す。
「アルは食べる事に苦労した事がないのね。お金大事。愛でてくれる人に売った方がお腹も膨れる」
シアにそう言われ、彼女の事をまじまじと見返す。痩せすぎなくらい痩せていて、年齢のわりに発育状態も良くない。
「……売り物撒くなよ」
「いいの。今はアルの事元気にする方が大事だから」
きれいなものを見ると幸せになるんだって、とシアは笑う。
「……何で?」
「わかんないけど、なんかとっても寂しそうに見えたから」
シアはフードの上からアルの頭に花冠を乗せる。そしていい子いい子と背伸びをして頭を撫でた。
(寂しい? 俺が?)
馬鹿らしいと嘲笑してしまいたかったのに、何故だかその言葉が引っかかる。
勝手に無遠慮に触ってくるその小さな手を振り払ってしまいたいのに、そうできなかったアルはされるがままただそうしてそこにいた。