【コミカライズ企画進行中】捨てられ聖女は働かないっ!〜追放されたので念願のスローライフはじめます〜
そんな風に交流を重ねながら月日は流れていった。
「フード取らないの? この時期暑くない?」
「……いいんだよ。コレはこのままで」
満月のせいで魔族のツノは隠せないし、月明かりが眩しい。無駄に浴びたら目の色も変わるので、誤魔化しようがなくなる。
とはいえ、さすがに真っ黒な羽織りを着込むのは時期的に浮くなとぼんやりとアルは考える。
「ねぇ、魔法見せてよ!」
シアが興味本意でそう口にする。
「無駄に使う気はない」
キッパリそう言い切るアルに、
「できないんだ。ダサっ」
とシアはそう言う。
「お前、日に日に口が悪くなってるだろ」
「アルの方が悪いもーん。ウザい。ところで何読んでるの?」
ダサいだのウザいだの今まで聞かれなかった単語がシアの口から出てきてアルは少なからずショックを受ける。
「ところで、何見てるの?」
「……ガキの手懐け方」
「育児書って書いてあるけど、アルガキできたの?」
「お前、字読めたのかよ。あとガキはいないし、結婚もしてない」
「もちろん。物覚えいいっていつも褒められるんだから」
ドヤっと胸を張るシアは小生意気なのだが、その得意げに笑う顔は嫌いではないなとアルは思う。
誓約魔法を解除するにも、きっとシアは自分が納得できない事には同意しないだろうことはこの交流を通して学んだので、まずはヒトの生態を学んでみる事にした。
そうして読みはじめた参考書の一文にアルは固まる。
「アル、どうしたの?」
『子どもは大人の事をよく見て真似ます。子どもの良きお手本となるために、まずは我が身を見直してみましょう』
きょとんと不思議そうに見上げてくる碧眼と目が合い、アルは盛大にため息をつく。
「……もう少し、これからは言動に気をつける事にする」
シアの言葉遣いが荒れはじめた原因は自分かもしれないと、アルは反省した。
「じゃ、まずはお前っていうのやめてよ」
ずっとそう言ってると頬を膨らませたシアを見ながら、アルは少し不器用な笑顔を浮かべて、
「……シア」
と初めて彼女の名を呼んだ。
「アルが、笑った」
碧眼を丸々大きく見開いたあと、満面の笑顔を浮かべて抱きついてきた。
小さな小さな熱の塊。アルにとっては犬猫と変わらないくらい儚い命。
「ダサいとかウザいって言ってごめんなさい」
顔を伏せたままぼそっと謝るシアの髪を撫でる。されるがままの無防備に笑うシアを見ながら思う。
いつでも捻り潰せるほど脆弱な存在なはずなのに、そうしたくないし、誰にもそうさせたくない。
たったこれだけの事を喜ぶ彼女に抱く、この感情をヒトは何と呼ぶのだろう?
シアといると、知らない名前の感情ばかりが積み重なっていく。
撫でられる感触が気持ち良かったのか、そのまま小さくあくびをしたシアは眠ってしまった。
「天敵と、好んで関わるなんてどうかしてる」
そう思うのに、このまま聖女であることにも魔力を持っている事にも気づかずに、彼女がヒトの中で健やかに大きくなればと良いと思っている自分に驚き、苦笑する。
「どうせ、大した時間でもないし。もう少しだけ、このままで」
おやすみ、そう言ったアルの表情が仏頂面でなくなっていた事に、本人も気づいていなかった。
「フード取らないの? この時期暑くない?」
「……いいんだよ。コレはこのままで」
満月のせいで魔族のツノは隠せないし、月明かりが眩しい。無駄に浴びたら目の色も変わるので、誤魔化しようがなくなる。
とはいえ、さすがに真っ黒な羽織りを着込むのは時期的に浮くなとぼんやりとアルは考える。
「ねぇ、魔法見せてよ!」
シアが興味本意でそう口にする。
「無駄に使う気はない」
キッパリそう言い切るアルに、
「できないんだ。ダサっ」
とシアはそう言う。
「お前、日に日に口が悪くなってるだろ」
「アルの方が悪いもーん。ウザい。ところで何読んでるの?」
ダサいだのウザいだの今まで聞かれなかった単語がシアの口から出てきてアルは少なからずショックを受ける。
「ところで、何見てるの?」
「……ガキの手懐け方」
「育児書って書いてあるけど、アルガキできたの?」
「お前、字読めたのかよ。あとガキはいないし、結婚もしてない」
「もちろん。物覚えいいっていつも褒められるんだから」
ドヤっと胸を張るシアは小生意気なのだが、その得意げに笑う顔は嫌いではないなとアルは思う。
誓約魔法を解除するにも、きっとシアは自分が納得できない事には同意しないだろうことはこの交流を通して学んだので、まずはヒトの生態を学んでみる事にした。
そうして読みはじめた参考書の一文にアルは固まる。
「アル、どうしたの?」
『子どもは大人の事をよく見て真似ます。子どもの良きお手本となるために、まずは我が身を見直してみましょう』
きょとんと不思議そうに見上げてくる碧眼と目が合い、アルは盛大にため息をつく。
「……もう少し、これからは言動に気をつける事にする」
シアの言葉遣いが荒れはじめた原因は自分かもしれないと、アルは反省した。
「じゃ、まずはお前っていうのやめてよ」
ずっとそう言ってると頬を膨らませたシアを見ながら、アルは少し不器用な笑顔を浮かべて、
「……シア」
と初めて彼女の名を呼んだ。
「アルが、笑った」
碧眼を丸々大きく見開いたあと、満面の笑顔を浮かべて抱きついてきた。
小さな小さな熱の塊。アルにとっては犬猫と変わらないくらい儚い命。
「ダサいとかウザいって言ってごめんなさい」
顔を伏せたままぼそっと謝るシアの髪を撫でる。されるがままの無防備に笑うシアを見ながら思う。
いつでも捻り潰せるほど脆弱な存在なはずなのに、そうしたくないし、誰にもそうさせたくない。
たったこれだけの事を喜ぶ彼女に抱く、この感情をヒトは何と呼ぶのだろう?
シアといると、知らない名前の感情ばかりが積み重なっていく。
撫でられる感触が気持ち良かったのか、そのまま小さくあくびをしたシアは眠ってしまった。
「天敵と、好んで関わるなんてどうかしてる」
そう思うのに、このまま聖女であることにも魔力を持っている事にも気づかずに、彼女がヒトの中で健やかに大きくなればと良いと思っている自分に驚き、苦笑する。
「どうせ、大した時間でもないし。もう少しだけ、このままで」
おやすみ、そう言ったアルの表情が仏頂面でなくなっていた事に、本人も気づいていなかった。