【コミカライズ企画進行中】捨てられ聖女は働かないっ!〜追放されたので念願のスローライフはじめます〜
38.その聖女、約束する。
同じ季節を2回ずつ経験した頃には、満月の晩に待ち合わせるのが当たり前になっていた。
「アル! 今日は遅かったのね」
長いピンク色の髪をはためかせ、シアは無邪気に笑う。
「ん、ちょっと厄介なのを撒くのに手間取って」
近づいて来たシアの髪を撫でる。それだけで先程まで、魔ノ国で積み上がっていた面倒な政務に向き合って疲れていた気持ちが癒やされる。
「お疲れ様とこんばんはとよくがんばりました」
「ん、ありがとう」
直した言動が随分板につき、自分でも驚くほどにシアの前では笑うようになったと思う。
いつもギリギリまで張り詰めていた神経をシアの前では尖らせる必要はないのだと理解してからは尚更、この穏やかな時間が手放し難いものになっていた。
「シア、またちょっと大きくなった?」
「ひと月でそんなに変わらないよ」
変なアルと大人しく抱っこされるシアは、今日あった事を楽しそうに話し出す。
そんなシアを見ながらアルは思う。
この子はいつまで自分に笑いかけてくれるだろうか、と。
ヒトの子の成長は早い。自分が生まれる遥か前に、先代聖女に煮るなり焼くなり好きにしろと魔族に売却されているだなんて知ったら、シアはどう思うだろうか?
それに魔族は人間からすれば、恐怖の対象でしかない。シアは聡い子だ。そう遠くないうちに、自分が魔族であることもきっと気づかれる。
「……アル、どうしたの? 難しい顔してる」
「ふふ、シアはどんな大人になるんだろうなって」
アルはそう言って、シアのピンク色の髪を梳く。
年齢とともに体内に保有する魔力量が増していき、シアの髪の色は随分濃いピンク色に染まっていた。
そのうち、魔力持ちであることも、聖女であることも隠しきれなくなる日が来るかもしれない。
人間は欲深い生き物だ。今代聖女が生まれていると分かれば、こちらが不干渉を貫いていても、魔ノ国の資源に目が眩んだ人間が何かと理由をつけて領域を超え魔ノ国に乗り込んでくる可能性だってある。
そうなれば戦場でシアと対峙する羽目になる。そうなったとき、彼女を殺せる気がしない。
「シア、あのね。シアに伝えておきたい事がある」
これ以上、情が湧く前にさっさと誓約魔法を解除して離れたほうがいいのかもしれない。
シアとの時間に手放し難さは感じている。だけど、ここらが潮時だろうと、アルは覚悟を決めた。
ストンとシアを地面に降ろして、彼女と目線を合わせたアルは、黒のフードを外し月光にその姿を晒した。
「俺は魔族なんだ」
黒い髪にヒトにはないツノと紅く染まっただろう紅茶色の目の変化を見ても、シアはとくに驚くことはなく、見返してくる。
「シアに近づいた理由はね、ずっと前にした約束を解きたかったからなんだ」
怖がらせまいとなるべく穏やかな声を心がけ、アルは言葉を紡ぐ。
「シアが同意してくれたら、すぐ終わるから、怖いかもしれないけど、一度だけこの手で直接シアに触れてもいいかな?」
手袋を外した爪は黒く、ヒトのそれとは異なる。
これだけ懐いてくれていたシアに怯えられるのは辛いなと思いながらアルはそう尋ねた。
「アル! 今日は遅かったのね」
長いピンク色の髪をはためかせ、シアは無邪気に笑う。
「ん、ちょっと厄介なのを撒くのに手間取って」
近づいて来たシアの髪を撫でる。それだけで先程まで、魔ノ国で積み上がっていた面倒な政務に向き合って疲れていた気持ちが癒やされる。
「お疲れ様とこんばんはとよくがんばりました」
「ん、ありがとう」
直した言動が随分板につき、自分でも驚くほどにシアの前では笑うようになったと思う。
いつもギリギリまで張り詰めていた神経をシアの前では尖らせる必要はないのだと理解してからは尚更、この穏やかな時間が手放し難いものになっていた。
「シア、またちょっと大きくなった?」
「ひと月でそんなに変わらないよ」
変なアルと大人しく抱っこされるシアは、今日あった事を楽しそうに話し出す。
そんなシアを見ながらアルは思う。
この子はいつまで自分に笑いかけてくれるだろうか、と。
ヒトの子の成長は早い。自分が生まれる遥か前に、先代聖女に煮るなり焼くなり好きにしろと魔族に売却されているだなんて知ったら、シアはどう思うだろうか?
それに魔族は人間からすれば、恐怖の対象でしかない。シアは聡い子だ。そう遠くないうちに、自分が魔族であることもきっと気づかれる。
「……アル、どうしたの? 難しい顔してる」
「ふふ、シアはどんな大人になるんだろうなって」
アルはそう言って、シアのピンク色の髪を梳く。
年齢とともに体内に保有する魔力量が増していき、シアの髪の色は随分濃いピンク色に染まっていた。
そのうち、魔力持ちであることも、聖女であることも隠しきれなくなる日が来るかもしれない。
人間は欲深い生き物だ。今代聖女が生まれていると分かれば、こちらが不干渉を貫いていても、魔ノ国の資源に目が眩んだ人間が何かと理由をつけて領域を超え魔ノ国に乗り込んでくる可能性だってある。
そうなれば戦場でシアと対峙する羽目になる。そうなったとき、彼女を殺せる気がしない。
「シア、あのね。シアに伝えておきたい事がある」
これ以上、情が湧く前にさっさと誓約魔法を解除して離れたほうがいいのかもしれない。
シアとの時間に手放し難さは感じている。だけど、ここらが潮時だろうと、アルは覚悟を決めた。
ストンとシアを地面に降ろして、彼女と目線を合わせたアルは、黒のフードを外し月光にその姿を晒した。
「俺は魔族なんだ」
黒い髪にヒトにはないツノと紅く染まっただろう紅茶色の目の変化を見ても、シアはとくに驚くことはなく、見返してくる。
「シアに近づいた理由はね、ずっと前にした約束を解きたかったからなんだ」
怖がらせまいとなるべく穏やかな声を心がけ、アルは言葉を紡ぐ。
「シアが同意してくれたら、すぐ終わるから、怖いかもしれないけど、一度だけこの手で直接シアに触れてもいいかな?」
手袋を外した爪は黒く、ヒトのそれとは異なる。
これだけ懐いてくれていたシアに怯えられるのは辛いなと思いながらアルはそう尋ねた。