【コミカライズ企画進行中】捨てられ聖女は働かないっ!〜追放されたので念願のスローライフはじめます〜
「それにしても、律儀に約束守るだなんて、アルは昔から真面目なのね。そんなもの、放っておけば良かったでしょうに」
私は自分の左手の甲に視線を落とす。昔、ここには不思議な形のあざがあった。おそらくそれが目印で、そして契約書だったのだろう。
「そういう一面もあったのかもしれない。だから、破壊の限りを尽くしたあとは、大人しく淡々と国を治めたんだろう」
クロードが話したアルの昔話は、私には信じられないもので、私の中のアルと一致しない。
まるでゲームのように力を誇示して、奪い、破壊し、そうして自分より強い者がいないと悟って、仕方なく国の頂点に君臨することになったつまらない顔をしたアルの姿なんて、私は知らない。
「だが、いくらでも反故にしようと思えばできたはずの誓約魔法の約束を律儀に守ったのは、その相手がセイカ様だったからに他ならない」
その言葉に私の胸はチクリと痛む。先代聖女とアルがどんな関係だったかなんて、今更掘り起こしたところでどうにもならないのは分かっている。
それでも100年近くたった今でもアルの心の中にいるくらい、深くアルと関われた彼女の事が羨ましい。
「不機嫌と面倒以外ほとんど感情らしい感情なんて表に出さなかったアルバート様が、傍目からみても気にかけているのが分かるくらいセイカ様とは打ち解けているようだった」
まぁ2人の交流なんて、ほとんどボードゲームをしているだけだったけどなとクロードはそう付け足す。
「笑ってないアルなんて、想像つかないな」
そちらの方が想像できないとクロードは怪訝そうに眉を寄せる。さっき食べたサンドイッチが実はアル作だと教えたらきっと驚くだろうなと密かに笑った私は、
「百聞は一見にしかずよ」
ニヤニヤしながらカフェのチラシをそっと渡した。尚も怪訝そうなクロードは話を進める。
「セイカ様が居なくなってからは、また元の不機嫌な王に戻られて、ただ淡々と国を守っていた」
ああ、でも子どもの頃出会ったばかりの時は、いつも仏頂面で口も悪かったなと思い出す。
「そんなアルバート様が毎月満月の晩に出かけるようになった。行く時も帰ってきたあともそれはそれは不機嫌で嫌そうなのに、毎回出かけていくんだ。そのうちに、仏頂面は変わらないのに、自分は食べない菓子だのリボンだの子どもが好みそうなモノを用意するようになって、いつしかその日を心待ちにされているかのように月を見上げる日が増えた」
私は子どもの頃に思いを馳せる。アルはいつも見た事ないような色とりどりのお菓子をくれたし、可愛いリボンで髪を結ってくれた。
私が毎月満月の夜を楽しみにしていたように、アルも私に会うのを楽しみにしていてくれたのだろうか?
そう、だったらとても嬉しい。
「本来、魔族にとって魔力の源になる瘴気を一瞬で消してしまい、それを元に生成された体内の魔力すら消し飛ばし弱体化させる聖女は天敵と言ってもいい存在だ。だが、聖女の持つ神気は瘴気から得た魔力よりもずっと強い力と回復力を与える。聖女は奪いもするし、与えもする。まるで気まぐれな神のように」
私がこの土地に住んでもうすぐ1年。ずっと瘴気を祓い続けている。それは、アルにとってどれほど負担だったのだろう?
魔族にとって魔力がどんなものなのか考えた事もなかった。
自分の浅はかさが恥ずかしくて、悔しくて、私は拳を握り締める。
「セイカ様は、自分がいなくなった後のアルバート様を案じて約束を残したのだと俺は思っている。セリシアが今代の聖女だというのなら、あの方にも救いを与えてはもらえないか?」
クロードは私のことをまっすぐ見据え、そう願った。
「私は気まぐれな神様なんかじゃないし、物語の聖女のように誰にでも手を差し伸べるほど、慈悲深くもない」
私は自分の指先を見つめ、私に託されたものを考える。
「先代聖女との約束? 契約の回収? そんなの、私には関係ないわ」
私はアルと同じ紅茶色の瞳を持つクロードの事を真っ直ぐ見つめ返し、
「これは、アルと私の問題だわ」
そう、はっきりと言い切った。
私は自分の左手の甲に視線を落とす。昔、ここには不思議な形のあざがあった。おそらくそれが目印で、そして契約書だったのだろう。
「そういう一面もあったのかもしれない。だから、破壊の限りを尽くしたあとは、大人しく淡々と国を治めたんだろう」
クロードが話したアルの昔話は、私には信じられないもので、私の中のアルと一致しない。
まるでゲームのように力を誇示して、奪い、破壊し、そうして自分より強い者がいないと悟って、仕方なく国の頂点に君臨することになったつまらない顔をしたアルの姿なんて、私は知らない。
「だが、いくらでも反故にしようと思えばできたはずの誓約魔法の約束を律儀に守ったのは、その相手がセイカ様だったからに他ならない」
その言葉に私の胸はチクリと痛む。先代聖女とアルがどんな関係だったかなんて、今更掘り起こしたところでどうにもならないのは分かっている。
それでも100年近くたった今でもアルの心の中にいるくらい、深くアルと関われた彼女の事が羨ましい。
「不機嫌と面倒以外ほとんど感情らしい感情なんて表に出さなかったアルバート様が、傍目からみても気にかけているのが分かるくらいセイカ様とは打ち解けているようだった」
まぁ2人の交流なんて、ほとんどボードゲームをしているだけだったけどなとクロードはそう付け足す。
「笑ってないアルなんて、想像つかないな」
そちらの方が想像できないとクロードは怪訝そうに眉を寄せる。さっき食べたサンドイッチが実はアル作だと教えたらきっと驚くだろうなと密かに笑った私は、
「百聞は一見にしかずよ」
ニヤニヤしながらカフェのチラシをそっと渡した。尚も怪訝そうなクロードは話を進める。
「セイカ様が居なくなってからは、また元の不機嫌な王に戻られて、ただ淡々と国を守っていた」
ああ、でも子どもの頃出会ったばかりの時は、いつも仏頂面で口も悪かったなと思い出す。
「そんなアルバート様が毎月満月の晩に出かけるようになった。行く時も帰ってきたあともそれはそれは不機嫌で嫌そうなのに、毎回出かけていくんだ。そのうちに、仏頂面は変わらないのに、自分は食べない菓子だのリボンだの子どもが好みそうなモノを用意するようになって、いつしかその日を心待ちにされているかのように月を見上げる日が増えた」
私は子どもの頃に思いを馳せる。アルはいつも見た事ないような色とりどりのお菓子をくれたし、可愛いリボンで髪を結ってくれた。
私が毎月満月の夜を楽しみにしていたように、アルも私に会うのを楽しみにしていてくれたのだろうか?
そう、だったらとても嬉しい。
「本来、魔族にとって魔力の源になる瘴気を一瞬で消してしまい、それを元に生成された体内の魔力すら消し飛ばし弱体化させる聖女は天敵と言ってもいい存在だ。だが、聖女の持つ神気は瘴気から得た魔力よりもずっと強い力と回復力を与える。聖女は奪いもするし、与えもする。まるで気まぐれな神のように」
私がこの土地に住んでもうすぐ1年。ずっと瘴気を祓い続けている。それは、アルにとってどれほど負担だったのだろう?
魔族にとって魔力がどんなものなのか考えた事もなかった。
自分の浅はかさが恥ずかしくて、悔しくて、私は拳を握り締める。
「セイカ様は、自分がいなくなった後のアルバート様を案じて約束を残したのだと俺は思っている。セリシアが今代の聖女だというのなら、あの方にも救いを与えてはもらえないか?」
クロードは私のことをまっすぐ見据え、そう願った。
「私は気まぐれな神様なんかじゃないし、物語の聖女のように誰にでも手を差し伸べるほど、慈悲深くもない」
私は自分の指先を見つめ、私に託されたものを考える。
「先代聖女との約束? 契約の回収? そんなの、私には関係ないわ」
私はアルと同じ紅茶色の瞳を持つクロードの事を真っ直ぐ見つめ返し、
「これは、アルと私の問題だわ」
そう、はっきりと言い切った。