【コミカライズ企画進行中】捨てられ聖女は働かないっ!〜追放されたので念願のスローライフはじめます〜
41.その聖女、過去を語る。
「ねぇ、答え合わせをしてもいい?」
「答え合わせ?」
アルから手を離した私はアルに微笑んで、
「私ね、小さな頃ここにアザがあったの」
左の手の甲を差して、そういった。
「今、ここにそれがないのは、あの日誓約魔法ごと全ての呪詛をアルが無理矢理私から引き剥がしてしまったから、よね?」
沈黙を貫くアルに、私は静かに言葉を紡ぐ。
「私は先代聖女に差し出された対価だったんでしょ?」
最も履行のための契約書は、もう既に破棄されてしまっているけれどと、私はそうつぶやきながら手の甲をなぞった。
アルは驚いたように息を飲み、私から視線を逸らしてアイツっと小さくつぶやいた。
「クロードはアルの事心配してただけだから叱らないであげて欲しい。私は知れて良かったと思ってる」
「言い訳に聞こえるかもしれないけど、俺はシアのことを物みたいに扱う気はなかった」
「知ってる。どれだけ、アルに大事にしてもらったのか、私が一番よく知ってるよ」
私は私より随分背の高いアルを見上げて、笑う。
「どんな経緯であったとしても、アルが会いに来てくれて良かったと思ってるし、昔の事を思い出せて良かったと思ってる。アルの事が大好きだった、子どもの頃のこと、私にとっては全部、宝物なの」
「……俺のせいであんなに、怖い思いをしたのに?」
「怖かった。だけどアレはアルのせいじゃない」
私は静かにあの日の夜の出来事に思いを馳せる。
今、思い出しても寒気がする。すべての生命力を、魔力を、そして聖女の力を体から無理矢理引き離そうとするような、悍ましい生き物と対峙した夜の事を。
◆◆◆◆◆◆◆◆
誕生日なんて祝えるほど裕福ではなかったから明確には覚えてないけれど、多分8つを過ぎた雨季の事だった。
その頃の私は満月の夜に誘われてふらふらと出歩きたい衝動がずいぶん落ち着いていて、本当はもう夜にゆっくり眠れるようになっていたんだけれど、どうしてもアルに会いたくて眠れないふりをしていた。
(今日は、アル来ないかな)
今夜は満月だというのに、今にも泣き出しそうな雨雲が空全体を覆っていて薄暗く、夏も近いと言うのに肌寒かった。
「こんばんは」
声をかけてきたそのヒトの頭には、人間にはないツノが付いていて、アルと同じ黒い髪をしていた。
怪しく光る、赤い眼もアルと同じで、私にとっては特に怖いものではなかった。
ただ警戒はした。私に近づいてくるヒト以外の存在、つまり魔族と言う生き物は大体みんな自分の正体を隠そうとしているものだったのに、そのヒトは隠すことなど一切なく私に近づいてきたからだ。
「アルバート様がお待ちです」
恭しくそのヒトは頭を垂れてそういった。それがアルの本名だと私の中で結びつくまで数秒、この魔族はなんだか違うと私の中で警鐘が鳴る。
「ここで待ちます。必ず来るから」
「それでは困るのですよ。あの人に見つかっては、私が殺されてしまいますので」
最後まで聞かずに私は必死で走ったけれど、きっとそのヒトの手に捕まるまで数分もなかったのではないだろうか。
満月の出ていなかったその夜に、私は魔族の手に落ちた。
「答え合わせ?」
アルから手を離した私はアルに微笑んで、
「私ね、小さな頃ここにアザがあったの」
左の手の甲を差して、そういった。
「今、ここにそれがないのは、あの日誓約魔法ごと全ての呪詛をアルが無理矢理私から引き剥がしてしまったから、よね?」
沈黙を貫くアルに、私は静かに言葉を紡ぐ。
「私は先代聖女に差し出された対価だったんでしょ?」
最も履行のための契約書は、もう既に破棄されてしまっているけれどと、私はそうつぶやきながら手の甲をなぞった。
アルは驚いたように息を飲み、私から視線を逸らしてアイツっと小さくつぶやいた。
「クロードはアルの事心配してただけだから叱らないであげて欲しい。私は知れて良かったと思ってる」
「言い訳に聞こえるかもしれないけど、俺はシアのことを物みたいに扱う気はなかった」
「知ってる。どれだけ、アルに大事にしてもらったのか、私が一番よく知ってるよ」
私は私より随分背の高いアルを見上げて、笑う。
「どんな経緯であったとしても、アルが会いに来てくれて良かったと思ってるし、昔の事を思い出せて良かったと思ってる。アルの事が大好きだった、子どもの頃のこと、私にとっては全部、宝物なの」
「……俺のせいであんなに、怖い思いをしたのに?」
「怖かった。だけどアレはアルのせいじゃない」
私は静かにあの日の夜の出来事に思いを馳せる。
今、思い出しても寒気がする。すべての生命力を、魔力を、そして聖女の力を体から無理矢理引き離そうとするような、悍ましい生き物と対峙した夜の事を。
◆◆◆◆◆◆◆◆
誕生日なんて祝えるほど裕福ではなかったから明確には覚えてないけれど、多分8つを過ぎた雨季の事だった。
その頃の私は満月の夜に誘われてふらふらと出歩きたい衝動がずいぶん落ち着いていて、本当はもう夜にゆっくり眠れるようになっていたんだけれど、どうしてもアルに会いたくて眠れないふりをしていた。
(今日は、アル来ないかな)
今夜は満月だというのに、今にも泣き出しそうな雨雲が空全体を覆っていて薄暗く、夏も近いと言うのに肌寒かった。
「こんばんは」
声をかけてきたそのヒトの頭には、人間にはないツノが付いていて、アルと同じ黒い髪をしていた。
怪しく光る、赤い眼もアルと同じで、私にとっては特に怖いものではなかった。
ただ警戒はした。私に近づいてくるヒト以外の存在、つまり魔族と言う生き物は大体みんな自分の正体を隠そうとしているものだったのに、そのヒトは隠すことなど一切なく私に近づいてきたからだ。
「アルバート様がお待ちです」
恭しくそのヒトは頭を垂れてそういった。それがアルの本名だと私の中で結びつくまで数秒、この魔族はなんだか違うと私の中で警鐘が鳴る。
「ここで待ちます。必ず来るから」
「それでは困るのですよ。あの人に見つかっては、私が殺されてしまいますので」
最後まで聞かずに私は必死で走ったけれど、きっとそのヒトの手に捕まるまで数分もなかったのではないだろうか。
満月の出ていなかったその夜に、私は魔族の手に落ちた。