【コミカライズ企画進行中】捨てられ聖女は働かないっ!〜追放されたので念願のスローライフはじめます〜
(お月様が見てない夜は、いつもみたいな万能感がないな)
ぼんやりそんなことを考えたのを覚えている。
「……素晴らしい回復力だ。神気で満ちている」
私はたくさんの魔族に囲まれて身体中至る所に牙を突き立てられ保持していたらしい体内の魔力と神気を喰われていた。
流れ過ぎた血のせいで頭がぼんやりするのに、意識は飛んでなくならず、体からいろんなものが引き離されるような感覚を感じながら、私はそれでも生きていた。
「喰らっても喰らってもなくならない。これほど希少価値の高い餌を囲っているとは。……さすが魔王のお気に入り」
怖くて泣いたのは、どれぐらい前の事だっけ?
耳を塞いで目を閉じてしまいたいのに、指先1つ私の体は思い通りにならなくて、私の意思に反して勝手に音を拾っていく。
(……エサ? 私は……エサ、なのか)
ああ、間違いなく、私は彼らにとってエサなのだろう。
「これでもうあいつの時代は終わる。聖女の神気を手にしたのだ。ようやくあいつが討てる」
「天敵を育てるなど、あの魔王は気でも触れたか。これは正義だ」
私が何をしたと言うのだろう?
アルとずっと一緒にいたいと思ったから?
(どうせ、食べられるなら、アルが良かったな)
私はきっとこのまま死ぬのだろう。そう、思っていた。
「……喰いきれない」
「力が強すぎる」
「今代の聖女は化け物か」
なのに、私は死ななかった。何十もの魔族に魔力と神気を喰い荒らされても、私の体は勝手に力を回復し続ける。
「……死神を下ろそう。時間をかけて喰らい、命を絶つ」
「〜〜〜----っ」
身を焼かれるような痛みに私は声にならない叫びを上げる。
こうして、私は呪われた。その直後だった。
私の目の前が真っ赤に染まったのは。
真っ黒な槍を持った、真っ赤な目をしたアルが、見た事ないほどに怒りに顔を歪ませて、そこに立っていた。
「俺のモノに手を出して、生きてココを出られると思うなよ」
その場から私とアル以外の命が消えるのは本当に一瞬の出来事だった。
「……シア。ごめん、来るの遅くて。怖い思いさせて、ごめん。俺のせいで、ごめんね」
もう大丈夫だから、とアルは真っ赤に染まった両手を私に伸ばす。
身体が自由になった私はその手を反射的に払っていた。
アルが悪いわけではなかったのに、魔族に対しての恐怖が刷り込まれるには十分過ぎる時間と体験だった。
アルは悪くないと分かっているのに、膨れ上がった憎悪を泣きながらぶつけ続けた。
それに呼応するように、私に入れられた呪いが私の聖女の力を勝手に吸って暴走し、先程死んだはずの魔族達の影だけが怨みの塊のように抜け出して、アルを攻撃し始めた。
(違うのに、こんな事、したくないのにっ)
聖女の力を吸ったそれは強く、直接触れただけでアルの魔力を浄化させて弱体化する。
そもそも魔力持ちだったことすら知らなかった私が、私から切り離されて暴走した力の抑え方なんて知るはずもなくて、ボロボロになっていくアルを私は立ち尽くすように見ているしかできなかった。
「ヤダ……アルが、死んじゃう」
どうすればいいのか分からない状況で、なぜか思い出したのは、熱心に祈る母の姿だった。
祈ったって神様は助けてなんかくれないじゃないと言った私に、母はいつも言っていた。
『言葉にして誓う事が大事なの。頑張るから見ててくださいって』
私は膝をついて、目を閉じて手を組み祈る。
「消えて。……全部、消えて」
私に力があるのなら、それを制御してみせるから、ととにかく必死だった。
一気に力が溢れていき、目を閉じていても分かるほど辺りが明るくなったのを感じる。
光が収まって目を開けたとき、もうその恨みの塊はそこには居なかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ぼんやりそんなことを考えたのを覚えている。
「……素晴らしい回復力だ。神気で満ちている」
私はたくさんの魔族に囲まれて身体中至る所に牙を突き立てられ保持していたらしい体内の魔力と神気を喰われていた。
流れ過ぎた血のせいで頭がぼんやりするのに、意識は飛んでなくならず、体からいろんなものが引き離されるような感覚を感じながら、私はそれでも生きていた。
「喰らっても喰らってもなくならない。これほど希少価値の高い餌を囲っているとは。……さすが魔王のお気に入り」
怖くて泣いたのは、どれぐらい前の事だっけ?
耳を塞いで目を閉じてしまいたいのに、指先1つ私の体は思い通りにならなくて、私の意思に反して勝手に音を拾っていく。
(……エサ? 私は……エサ、なのか)
ああ、間違いなく、私は彼らにとってエサなのだろう。
「これでもうあいつの時代は終わる。聖女の神気を手にしたのだ。ようやくあいつが討てる」
「天敵を育てるなど、あの魔王は気でも触れたか。これは正義だ」
私が何をしたと言うのだろう?
アルとずっと一緒にいたいと思ったから?
(どうせ、食べられるなら、アルが良かったな)
私はきっとこのまま死ぬのだろう。そう、思っていた。
「……喰いきれない」
「力が強すぎる」
「今代の聖女は化け物か」
なのに、私は死ななかった。何十もの魔族に魔力と神気を喰い荒らされても、私の体は勝手に力を回復し続ける。
「……死神を下ろそう。時間をかけて喰らい、命を絶つ」
「〜〜〜----っ」
身を焼かれるような痛みに私は声にならない叫びを上げる。
こうして、私は呪われた。その直後だった。
私の目の前が真っ赤に染まったのは。
真っ黒な槍を持った、真っ赤な目をしたアルが、見た事ないほどに怒りに顔を歪ませて、そこに立っていた。
「俺のモノに手を出して、生きてココを出られると思うなよ」
その場から私とアル以外の命が消えるのは本当に一瞬の出来事だった。
「……シア。ごめん、来るの遅くて。怖い思いさせて、ごめん。俺のせいで、ごめんね」
もう大丈夫だから、とアルは真っ赤に染まった両手を私に伸ばす。
身体が自由になった私はその手を反射的に払っていた。
アルが悪いわけではなかったのに、魔族に対しての恐怖が刷り込まれるには十分過ぎる時間と体験だった。
アルは悪くないと分かっているのに、膨れ上がった憎悪を泣きながらぶつけ続けた。
それに呼応するように、私に入れられた呪いが私の聖女の力を勝手に吸って暴走し、先程死んだはずの魔族達の影だけが怨みの塊のように抜け出して、アルを攻撃し始めた。
(違うのに、こんな事、したくないのにっ)
聖女の力を吸ったそれは強く、直接触れただけでアルの魔力を浄化させて弱体化する。
そもそも魔力持ちだったことすら知らなかった私が、私から切り離されて暴走した力の抑え方なんて知るはずもなくて、ボロボロになっていくアルを私は立ち尽くすように見ているしかできなかった。
「ヤダ……アルが、死んじゃう」
どうすればいいのか分からない状況で、なぜか思い出したのは、熱心に祈る母の姿だった。
祈ったって神様は助けてなんかくれないじゃないと言った私に、母はいつも言っていた。
『言葉にして誓う事が大事なの。頑張るから見ててくださいって』
私は膝をついて、目を閉じて手を組み祈る。
「消えて。……全部、消えて」
私に力があるのなら、それを制御してみせるから、ととにかく必死だった。
一気に力が溢れていき、目を閉じていても分かるほど辺りが明るくなったのを感じる。
光が収まって目を開けたとき、もうその恨みの塊はそこには居なかった。
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