可愛く着飾って、もっと愛して〜強引でめちゃくちゃな私のクチュリエ様〜
「でも一成だって同じだと思うよ」

「同じじゃない」

「そんなことない、私は一成の作る服がっ」

「同じなわけないだろ、あっちは一流デザイナーだぞ!」

声が大きくなる、廊下に響いてこだまする。


一成が、KAZUSHIのことを尊敬してたのは気付いていた。

あんなに苛立ちを放ちながらもデザイナーとしては評価してること、言われないけど感じていた。


そんなKAZUSHIからの言葉を一成はどんな風に聞いてたのかなって。


「わかってる、俺にはデザイナーとしての才能がない」


「…っ」

そんな言葉、一成から聞くなんて。

「服を作るのは好きだ、裁断だって裁縫だって手先には自信がある…だけどデザインは別だ。形がない、最初から想像の世界でしかない」

ポケットから取り出した手を見つめ、ゆっくり閉じて握りしめた。背を向けてるから表情は見えない、でもその手は微かに震えてた。


「それを見出せるカリスマ性は俺にはない」


この距離がもどかしい、あと5歩足を踏み出せばいいだけなのに。

近いようで遠くて、何もわからない私が言えることなんかなくて。


「だからクチュリエなんて嫌味にしか聞こえないんだよ!」


胸が張り裂けそうな声が私を襲う。

悲しくて痛い、そんな一成の背中が苦しい。

そんなことを思ってたなんて知らなかった、気付けなかった…


ずっと隣にいたのに。
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