キミの隣が好き
 振られて落ち込む俺に、ゆらりちゃんは優しい慰めの言葉をくれた。

「岩橋くんに合う、もっと素敵な人がいるよ。これからいい出会いが待っているよ」
「だよねっ! 俺もそう思う!!」
「うちも慰めてあげる。岩橋に合う、適度な人がいるよ。これから無難な出会いが待っているよ」
「うぉー! なんか激しく落ち込むー!!」

 ムンクの叫びみたいに絶叫した俺。魅音ちゃんは手を叩いて大笑いしている。
 魅音ちゃんは性格がいいとは言えない。でもこうして笑い飛ばしてくれると、もやもやした気分が晴れていくから不思議だ。
 気持ちを一新して、ゆらりちゃんにアタックする。

「ゆらりちゃん! 俺を可哀想だと思うなら、クリスマスパーティーしようよ!」
「お、それいいね! うちも混ざりたーい!!」
「じゃあさ、俺とゆらりちゃんと魅音ちゃんと水都の四人で、クリスマスパーティーをするっていうのは?」
「賛成ー!!」

 俺と魅音ちゃんはテンションが上がったというのに、ゆらりちゃんは困った顔で、自分の席で本を読んでいる水都に目を向けた。

「ごめんなさい。クリスマスは水都と過ごす予定なんだ」
 
 俺と魅音ちゃんは真顔で見合った。多分、同じことを考えている。

 ──ついに、この二人が付き合うときがやってきたのか……ゴクリ!!

「リアルカップルの誕生か。俺は一人寂しくクリスマスを過ごすというのに……」
「泣くな、若者よ。うちも一人だ」
「だったら、魅音と岩橋くんでクリスマスパーティーをしたら?」

 ゆらりちゃんの天然発言に、俺と魅音ちゃんは同時に「は?」とマヌケな返しをした。

「俺と魅音ちゃんで……」
「なんで岩橋とクリスマスを⁉︎ 一人で過ごしたほうがマシ! 岩橋だってそう思うでしょ!!」
「俺は……」

 魅音ちゃんは圧が強い。我も強い。独特のイジリをする。でも人情派で面倒見がいいし、頼りになる。人間として尊敬する。
 でも、彼女となると……。
 
 想像する。もしも魅音ちゃんが彼女になったら……?
 
「魅音ご主人様と、俺わんこみたいな……。そういうのもいいかも……」
「はぁ? やめてよね!」
「パワハラモラハラ男よりは、あなたに従いますっていう男のほうが良くない?」
「そうだけど……」
「俺、魅音ちゃんを支える! 魅音ちゃんの人生を全力で応援するよ。彼氏として!!」
「はあーっ⁉︎ やめて!! そういうこと誰にでも言っているんでしょう!」
「そういうことって?」
「彼氏発言だよ!」
「あー、冗談では言ったことあるけど、今度は本気だし!」
「信じない! チャラ男嫌い!!」

 魅音ちゃんは全然信じてくれない。今までの人生、その場のノリで適当に発言してきたことを反省する。
 
 魅音ちゃんは癖が強い。そのせいで周囲に埋没しない。むしろ、浮いている。亜由奈ちゃんと似た子は見つかるだろうけれど、魅音ちゃんと似た子は見つからないだろう。
 魅音ちゃんを本気で好きになったら、蟻地獄みたいに落ちていって、抜け出せなくなりそう。
 そういう恋もいいかもしれない。


< 118 / 132 >

この作品をシェア

pagetop