キミの隣が好き
 私は水都の母親と面識がある。けれど、父親とは初めて。水都は母親似だけれど、スラっとした高身長は父親に似たらしい。

「ゆらりちゃーん! 挨拶に来てくれたの? 嬉しい!」
「寒いだろう! 入りなさい」
「お父さんは初めてなんだから、挨拶!」
「あっ! はじめまして!! 水都の父親で、隆一郎といいます。息子がお世話になっているそうで、ありがとうございます」
「あ、いいえ、そんな、お世話になっているのは私のほうで……」
「顔が真っ赤。寒いわよね。どうぞ、あがって!」
「でも……」

 水都の母親は表情を明るくさせて、パンっと手を叩いた。

「夕食、食べていかない? クリスマスだからって張り切って作ったのに、水都は病みあがりで食欲がないっていうし、この人はお酒ばかり飲んで進まないし。どうかしら?」
「でも、家族が待っているので……」
「そう……残念ね」
「ゆらりちゃん。ローストチキンとアクアパッツァとキッシュとパエリアとズコットケーキだよ」
「え?」
「ひよりちゃんとくるり君を呼んできたら?」
「え?」

 ローストチキンとキッシュとパエリアはイメージがつくけれど、アクアパッツァとズコットケーキってなに?
 急遽バイトになったのでカレーを作ってきたけれど、断然、水都の母親が作った料理のほうがいい。ひよりとくるりも絶対に喜ぶ。
 そういうわけで、私は一旦家に戻って、ひよりとくるりを連れて来た。父は夜勤でいないのが残念だけれど、いたとしたも、遠慮して来なかっただろう。

 ひよりとくるりは、水都の家のリビングに入った途端、固まった。ひよりは目を白黒させている。

「え? ここって、お店ですか?」

 水都の母親の料理の腕前は、プロ級だった。料理の本から、そっくりそのまま出てきたよう。しかも、全部手作りだというので驚いてしまう。
 私とひよりとくるりが「美味しい!」「今まで食べた中で一番!」と喜んで食べていると、母親は涙ぐんだ。

「水都は食の細い子供だったから、たくさん食べてほしくて、料理教室に通ったのよ。でも水都も夫も、美味しいって全然言ってくれなくて……。こんなに喜んで食べてもらえて、嬉しい……」
「ミナトお兄ちゃん! 美味しいって言葉に出さないと、伝わらないぞ!」

 くるりに注意されて、水都と父親は、

「ごめんなさい。お母さん、いつも美味しいって思っています。ありがとうございます」
「僕も、世界一美味しいと思っています。いつもありがとうございます」
 
 と、頭を下げた。水都の母親は笑った。
 こうして、賑やかで楽しいクリスマスの夜を過ごしたのだった。
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