キミの隣が好き
 春休み。ぽかぽかとした暖かい陽気の中、トラックに積んである荷物を新しいアパートへと運び入れる。
 冷蔵庫や洗濯機などの重いものは父とコンビニの店長が運び、段ボール箱は魅音が運ぶ。
 アパートの中では、洗濯機の設置やテレビや照明の取り付けを岩橋くんが担当し、くるりと水都は台所用品や日常生活品を段ボールから出して所定の位置に並べ、私とひよりは家族の洋服をクローゼットへとしまう。
 見事なチームプレー。
 みんなの頑張りのおかげで、昼にはひと段落ついた。

「みんなお疲れさまー! 引っ越し蕎麦を持って来ましたー!」

 両手に袋を掲げて現れたのは、伊藤美月さん。居間に座った私たちの前に、コンビニの蕎麦と、飲み物が置かれる。

「お父さん、挨拶をお願いします」
「お、おおっ……」

 私が促すと、父はフローリングに正座した。一人一人の顔を見回す。

「本日はお忙しいところ、お手伝いいただきまして、誠にありがとうございます。皆様に手伝っていただいたおかげで、予定よりも早く作業を終えることができました。ゆらりは人に恵まれていると、感動しました。自分は父親として不甲斐ないところも多く情けない限りなのですが、子供たち三人とも真っ直ぐに育ってくれて……」
「ゆらりパパ! 結婚式の挨拶じゃないんだから!」

 魅音がツッコミを入れると、みんながどっと笑った。
 父は「言われてみれば……ははっ!」と、照れた顔で頭を掻いた。
 私としては、いただきますの挨拶をしてもらうつもりで父に声をかけたのだけれど……。真面目な父らしい挨拶に、私も笑う。

 父は日陰で真面目に生きてきたところがあって、頑張っても認めてもらえなかったり、裏切られたり、陰口を叩かれたりと苦労してきた。
 タイミング良く見つけた、築五年のアパート。日当たりの良いこの部屋のように、父もこれからは日の当たる道を歩いてほしいと思う。

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