キミの隣が好き
 岩橋くんは猫の他に、亀とハムスターを飼っている。動物好きなひよりとくるりは、岩橋くんの家に遊びに行った。魅音も一緒。
 コンビニの店長と美月さんは帰り、父は役所に行った。
 そういうわけで、アパートには私と水都の二人。

 水都が窓の大きさを測って、私はサイズを紙に書く。

「暗くなる前にカーテンを買いに行かないと」
「そうだね。僕も一緒に行くよ。その前に……」

 水都はメジャーをテレビの下の引き出しにしまうと、意味ありげな目で私を見つめた。

「今日、僕の誕生日なんだけど」

 三月二十二日は水都の誕生日。
 私はなにをプレゼントするか悩んだ末に、本人が欲しいものをあげるのが一番という答えになった。そういうわけで少し前に、水都に直接聞いた。水都は「当日言うね」と答えた。
 私は、カーテンを買いに出かけようとしていたのを引き返して、水都の前に立つ。

「お誕生日おめでとう。プレゼントなにがいい? これから一緒に買いに行く?」
「ううん。どこにも売っていない」
「ん? なにが欲しいの?」

 水都は、すらりとした人差し指で自分の頬をツンと突いた。

「ここに、ゆらりちゃんのキスが欲しい」
「きゃあーっ! ダ、ダメだよっ!!」
「なんで? ゆらりちゃんは僕のなに?」
「か、彼女です……」
「僕はゆらりちゃんのなに?」
「か、彼氏です……」
「じゃあ、ダメじゃないんじゃない?」

 水都は、このやり取りが大のお気に入り。
 デートのときに手を繋ぐのを恥ずかしがったり、学校の図書室で一緒に勉強するのを恥ずかしがったりすると、
「ゆらりちゃんは僕のなに?」「僕はゆらりちゃんのなに?」と訊ねてくる。
「彼女です」「彼氏です」と言うのが恥ずかしくて、一回、あえて外したことがある。

「ゆらりちゃんは僕のなに?」
「同じクラスの人です」
「へぇー、同じクラスの人。ふぅーん」

 その日。私たちはプラネタリウムを見た後で、同施設の展望台で話していたのだけれど、水都はいきなり私を抱きしめた。

「わわっ! 人! 人が見ているから!!」
「怒った」
「ごめん!」
「訂正して」
「彼女です!!」

 水都は大人びた容姿をしているのに、案外、子供っぽいところがある。ムキになったり、拗ねたり。けれど、そういう無防備なところを見せてくれるのは私だけ。気を許してくれているのだと思うと、嬉しくなる。
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