キミの隣が好き
 杏樹は、威圧感のある鋭い声で命令してきた。

「由良くんは、うちらの王子様だから。あんたのものじゃないんだから、独り占めするのはやめて!」
「あ……ごめんなさい。知らなくて……」
「なにを知らないって?」
「その……みんなが、みなっちを好きなこと……」
「はぁ? ねぇ、みなっちだって。どう思う?」

 杏樹は、友達三人を見回した。三人は意地の悪い笑い声をあげながら口々に、「水都くんにあだ名をつけるなんて生意気!」「そういうところが嫌われるんだよねぇ。全然わかっていない」「っち、ってなんなの? ダサすぎなんですけど!」と攻撃してきた。

「あのさぁ……」

 杏樹はドスの効いた低い声で睨んだ。眉間に青筋が浮いている。

「由良くんをダサいあだ名で呼ばないで!!」
「……ごめんなさい……」

 取り囲む四人が怖くて、何度も謝った。
 体の震えが止まらないのは、寒さのせいだけじゃない。
 私たちの他には誰もいない公園。誰か来て──、私は心の中で助けを求めた。

「あんたのこと嫌い。見ているだけでイラつく!!」
 
 杏樹は、私の肩をいきなり押した。身構えていなかったので、思いっきり尻もちをついた。
 杏樹は上から睨みつけ、友達三人は「だっさー!」と手を叩いて笑った。

「いじめられたい?」
「やだっ……」
「だったら、由良くんと仲良くしないで。絶交して!!」
「でも……」
「だいたいさ、ゆらりって名前、生意気。由良くんと被っていて、すっげーイラつく。名前、変えろ!!」
「…………」
「こんなのどう?」

 渡辺(わたなべ)美晴(みはる)が、笑いながら口を開いた。

「ブスだから、ぶらりがいいんじゃない?」
「それいいーっ! ぶらりのぶは、ブスのブーっ!!」

 四人全員が大笑いした。
 私は信じられない思いで、渡辺美晴を見上げた。美晴とは、幼稚園からの友達。小学生になって遊ぶ回数は減ったけれど、友達だと思っていた。もしかしたら、助けてくれるかも……と、淡い期待を抱いていた。
 けれど、助けてくれるどころか、ひどいあだ名をつけた。

 家に帰ると、父がいた。福祉施設に勤めているので、平日のほうが休みが多い。
 父は、おやつにポテトチップスをだしてくれた。
 話したかった。いじめられたって訴えたかった。
 でも、父の優しい笑顔を見ていると、なにも言えなかった。父を悲しませたくなかった。
 その夜。布団にもぐって、声を殺して泣いた。

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