キミの隣が好き
 私は魅音の母親の愛情がこもったお弁当を食べながら、水都のことを話した。
 幼稚園での出会い。それから、小学校で起こった悲劇。
 魅音は黙って聞いていたけれど、話が終わると、開口一番に文句を言った。

「おにぎりに塩がついていないんですけど。まずくはないけど、美味しくもない」
「米に塩をつけるなんて、そんな贅沢なことはしちゃダメ。そのままでよし!」
「貧乏、いと哀れなり。いたはしく涙いづ」
「そんなことはいいから! それよりも、その……私、ひどいよね?」
「なんで? ひどいのは、川瀬杏樹でしょ? 三組のあの女だよね? 髪はサラサラで綺麗だけどさ、心は腐っている。絶交するよう強要するなんて、クズな女」
「さ、さすがにそれは言い過ぎじゃ……」
「なんで? 本当のことじゃん。ゆらりも水都くんも被害者だよ」

 魅音のお腹は、おむすび二つでは満たされなかったらしい。宇宙人のお弁当ピックが刺さっているキウイフルーツに、手を伸ばしてきた。

「食べるの? お腹が空いていないんじゃ……」
「いいからいいから。それよりもさ、結婚の約束をした二人の仲を引き裂くなんて許せない。うち、姑息な女って嫌いなんだよね。川瀬杏樹に嫌がらせして、ぎゃふんと言わせてやりたい!」
「ぎゃふんって、なに? どういう意味?」
「ぎゃふんの発祥は江戸時代。由来は諸説ありますが、ぎゃーという驚きの言葉と、ふむふむという納得の言葉を組み合わせた……」
「由来を聞きたいわけじゃないから!」

 魅音は雑学好きなので、話がずれることが多い。けれど、話をもとに戻す役目をするのも魅音。

「で、ゆらりは水都くんのこと、今でも好きなわけ?」
 
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