キミの隣が好き
その日の夜。情けなさで押しつぶされそうな感情を、【つぶラン】に投稿する。
【ゆり@yurarinko・5分前
ワケあってクラスメートの後をつけたんだけど、失敗した】
【ゆり@yurarinko・3分前
ストーカーやSPや、犯人追跡探偵ごっこをしたかったわけじゃない。謝りたいだけなのに。そのハードルが高すぎる】
【ゆり@yurarinko・1分前
自分がこんなに弱虫だなんて思わなかった。情けない】
深々と息を吐きだし、目を閉じる。すると……。
ピロリン!
メール受信の音が響いた。目を開け、手の中にあるスマホを確認する。LINEの主は魅音だった。
『みなっちのつぶランのアカウントを入手した。見るべし。https://tuburan.com/supenosaurusu』
「え? どういうこと……?」
日本語とアルファベットの連なりを眺めていると、止まっていた思考が動きだした。
──みなっちって……水都? 見るべしって、見てもいいの?
絶叫しそうになり、慌てて片手で口を覆う。
私がスマホをいじっているのは、寝室。同じ部屋には、父とひよりとくるりが寝ている。
豆電球の明かりと、スマホの液晶画面が光るだけの、暗い室内。目が悪くなるとわかっているのに、眠れなくて、スマホをいじっていた。
手で口を覆ったまま、台所へといそいそと移動する。流しの上にある電気をつけると、再びスマホに視線を落とした。
「見るべしって……。いやいやいや、ダメでしょう!!」
しばらくLINEのやり取りをする。考えながら打つので時間がかかる私とは違って、魅音からは即座に返事がくる。
『私が見ること、水都は知っているの?』
『言っていない』
『ダメじゃん!!』
『だって、ゆらりが見ることを話したらサイトを辞めちゃうかも。みなっちの心の中を知りたくない?』
水都の心の中……知りたい。モーレツに知りたい!!
だけど……。
天使と悪魔がせめぎ合うのを感じながらも、常識パワーを使って、天使に味方する文面を打つ。
『勝手に見るのは悪いよ』
『いい人ぶるのはやめるべし』
『なんでこんな流れになったの?』
『説明するのめんどい』
『そんなこと言わないでー! 魅音様、教えてください!!』
『塾帰りに一緒になった。いろいろ話して教えてもらった』
『いろいろとは!?』
『教えるのめんどい』
『魅音様ー! そんなつれないことを言わないで!!』
『閲覧制限をかけていないってことはさ、つまりは世界中の人が見られる状態ってわけ。みなっちは頭がいいから、SNSをするメリットとデメリットをわかったうえで投稿している。ゆらりはたまたま見つけた。そういうことにすればいい』
『いいのかな?』
『風呂に入る。じゃ』
いつだって魅音のほうから、やりとりを終える。ダラダラと長く続かないのは楽でいいのだけれど、今回はもっと続けてほしかった。
暗くなったスマホ画面を見ながら、つぶやく。
「見てもいいのかな……?」
いい人ぶるのはやめるべし。との、魅音の文面が背中を押す。
水都の心を知りたい。そこに謝るヒントがありそうな気がする。少なくても、入学式の日に私を見てなにかを思ったはずだ。それがSNSに載っているかもしれない。
知りたい! すっごく知りたい!!
「一回だけなら……いいよね?」
悪魔の囁きに身を委ね、私は教えてもらったアカウントをタップした。
【ゆり@yurarinko・5分前
ワケあってクラスメートの後をつけたんだけど、失敗した】
【ゆり@yurarinko・3分前
ストーカーやSPや、犯人追跡探偵ごっこをしたかったわけじゃない。謝りたいだけなのに。そのハードルが高すぎる】
【ゆり@yurarinko・1分前
自分がこんなに弱虫だなんて思わなかった。情けない】
深々と息を吐きだし、目を閉じる。すると……。
ピロリン!
メール受信の音が響いた。目を開け、手の中にあるスマホを確認する。LINEの主は魅音だった。
『みなっちのつぶランのアカウントを入手した。見るべし。https://tuburan.com/supenosaurusu』
「え? どういうこと……?」
日本語とアルファベットの連なりを眺めていると、止まっていた思考が動きだした。
──みなっちって……水都? 見るべしって、見てもいいの?
絶叫しそうになり、慌てて片手で口を覆う。
私がスマホをいじっているのは、寝室。同じ部屋には、父とひよりとくるりが寝ている。
豆電球の明かりと、スマホの液晶画面が光るだけの、暗い室内。目が悪くなるとわかっているのに、眠れなくて、スマホをいじっていた。
手で口を覆ったまま、台所へといそいそと移動する。流しの上にある電気をつけると、再びスマホに視線を落とした。
「見るべしって……。いやいやいや、ダメでしょう!!」
しばらくLINEのやり取りをする。考えながら打つので時間がかかる私とは違って、魅音からは即座に返事がくる。
『私が見ること、水都は知っているの?』
『言っていない』
『ダメじゃん!!』
『だって、ゆらりが見ることを話したらサイトを辞めちゃうかも。みなっちの心の中を知りたくない?』
水都の心の中……知りたい。モーレツに知りたい!!
だけど……。
天使と悪魔がせめぎ合うのを感じながらも、常識パワーを使って、天使に味方する文面を打つ。
『勝手に見るのは悪いよ』
『いい人ぶるのはやめるべし』
『なんでこんな流れになったの?』
『説明するのめんどい』
『そんなこと言わないでー! 魅音様、教えてください!!』
『塾帰りに一緒になった。いろいろ話して教えてもらった』
『いろいろとは!?』
『教えるのめんどい』
『魅音様ー! そんなつれないことを言わないで!!』
『閲覧制限をかけていないってことはさ、つまりは世界中の人が見られる状態ってわけ。みなっちは頭がいいから、SNSをするメリットとデメリットをわかったうえで投稿している。ゆらりはたまたま見つけた。そういうことにすればいい』
『いいのかな?』
『風呂に入る。じゃ』
いつだって魅音のほうから、やりとりを終える。ダラダラと長く続かないのは楽でいいのだけれど、今回はもっと続けてほしかった。
暗くなったスマホ画面を見ながら、つぶやく。
「見てもいいのかな……?」
いい人ぶるのはやめるべし。との、魅音の文面が背中を押す。
水都の心を知りたい。そこに謝るヒントがありそうな気がする。少なくても、入学式の日に私を見てなにかを思ったはずだ。それがSNSに載っているかもしれない。
知りたい! すっごく知りたい!!
「一回だけなら……いいよね?」
悪魔の囁きに身を委ね、私は教えてもらったアカウントをタップした。