キミの隣が好き
 水都(みなと)は突然、「じゃ」と話を打ち切った。高梨ひなが、「終わってないんだけど!!」と慌てふためく。
 上履きの底が床に擦れる音が、こちらに近づいてくる。

(ヤバい! 盗み聞きしているのがバレてしまう!!)

 私は足音を立てないようにして、けれど猛ダッシュで、昇降口へと走った。ぶどうジュースを買えなかったため、口内がカラカラに乾いている。
 下足に履き替えると、ぶどうジュースの代わりに唾を飲み込だ。

「はぁー、焦った。……で、結局。好きな人はいるのかいないのか、どっちなの?」

 ため息を吐きだしながら、額を拭う。九月の二週目になったが、残暑は強烈で、額にはうっすらと汗が浮いている。
 ふとなにげなく、横を見た。目の端に、男子の制服が映ったから。

 そこにいたのは──水都だった。

「あ……」
「…………」

 水都は、高梨ひなと別れてすぐに昇降口に来たらしい。
 
(告白の余韻を楽しんで、ゆっくりと歩いてくればいいのに! ……って、違うよね。アレは振ったんだよね?)

 ホッとするものを感じた自分に、いやらしさを感じる。
 水都は顔が良いうえに背が高く、勉強もスポーツもできる。おまけに金持ち。
 私のような地味で冴えない貧乏女子、水都と全然釣り合わない。

 私は下に置いていた鞄を肩にかけた。
 水都は靴を履き替えている。
 校庭から運動部の掛け声が聞こえてくるけれど、昇降口は静かで、私たち以外には誰の姿もない。
 私たちは話さない。挨拶もしない。相手が見えていないかのように、振る舞う。

 なぜなら、私と水都は絶交しているから──。
 
 五歳から八歳までの、約三年間。私と水都は仲の良い友達だった。けれど、小学校二年生のときに絶交した。
 高校に入って、八年ぶりに同じクラスになった。けれど、絶交はまだ続いている──……。


 
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