キミの隣が好き

第二章 八年の溝を埋めていこう

 水都と約束した土曜日がやってきた。
 私は鼻歌混じりに、朝食を作る。今朝のメニューはご飯、目玉焼き、ほうれん草としらすのおかか和えに、キャベツと油揚げのお味噌汁。

「あれぇ? お姉ちゃん、浮かれている?」

 ひよりが目をこすりながら起きてきた。学校がある日は起こさないと目が覚めないのに、休みの日だと早く起きてくるから不思議だ。

「別に浮かれていないよ」
「そう? なんだか楽しそう」

 次女ひよりは、マイペース。他人の感情の動きに敏感なほうじゃない。そのひよりが気がついたのだから、細かいことによく気づく、くるりだったらすぐに見抜かれてしまうだろう。
 気を引き締めなくては! 
 キリッとした顔を作ると、フライパンに水を投入して蓋を置く。フライパンの中でジュウジュウと音をたてる目玉焼き。

「さてと、次は……うわぁ⁉︎」

 横を向いた途端。いつの間に起きてきたのか、くるりが真顔で私をじーっと見ていた。

「びっくりしたっ!! お、おはよう」
「彼氏できたの?」
「うわあっ! なに言っているの⁉︎ 全然違うよ!!」
「昨日から顔がにやけている。お姉ちゃんって、隠すのが下手だね」
「そういうのじゃないし、隠してもいないし! ただのクラスメートだから!」
「そういえば、ミナトって人とはどうなったの?」
「あっ、もうすぐで正式に仲直りができそう」
「そっか。ミナトが彼氏になったのか」
「なんでそうなるの⁉︎」
「ミナトの名前を出したら、にやけた」

 くるりは大きなあくびをすると、「トイレ」とぼそりと言い、台所から姿を消した。

「さすがはくるり。誤魔化せなかったか。彼氏ではないけれども!」

 頬をペチペチと叩く。にやけている自覚はないけれど、浮かれているとは思う。だって昨日、水都と相合傘をした。それだけでも嬉しかったのに、トドメを刺したのは、昨夜の水都のつぶやき。

【ん@supenosaurusu・9月27日
 降水確率60%ありがとう。おかげで相合傘ができました。可愛かった(*´꒳`*)】

 可愛かった⁉︎ それって、私のこと? しかも顔文字付き!!
 私は舞い上がってしまって、すぐにコメントを送った。それに対する返信が、さらに私を喜ばせた。

【ん@supenosaurusu・9月27日
 降水確率60%ありがとう。おかげで相合傘ができました。可愛かった(*´꒳`*)】
 ↓
【ゆり@yurarinko・9月27日
 良かったですね。顔文字付きなんて、よほど嬉しかったのですね】
 ↓
【ん@supenosaurusu・9月27日
 はい。癒しの天使です】

 癒しの天使……誰のこと? 私だって、勘違いしてもいいの?
 違うよ、私なんて天使とはほど遠い地味女子だよ。って、否定する自分がいる。けれど、この流れはどう考えても私じゃないのかな? と浮かれてしまう。だって、水都と相合傘をしたのは、私しかいない。
 そういうわけで、昨夜から私はニヤニヤしている。

「ん……焦げ臭い? ハッ、目玉焼き!!」

 急いで火を消し、蓋を開けてみれば、目玉焼きのまわりが焦げついてしまった。
 もったいないからと、黒焦げの部分を取り除いて、皿に乗せたのだった。

 
 
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