キミの隣が好き
「本当のお父さんになんて会いたくない。私のお父さんは、昌幸さんだもん」
「意地張らなくていいってば。弘治《こうじ》さんがね、あ、本当の父さんの名前、弘治さんっていうんだけどね、ゆらりに会いたいって。ゆらりの名前、弘治さんがつけたのよ」
「……バイトだから、じゃあ」
「休めばいいじゃない」
ゆらり、という名前を気に入っていた。でもそれは、記憶にない人がつけたものだった。
知りたくなかった。自分の名前を好きなままでいたかった。
母は無神経だ。昔からこうやって、自分本位な感情を押し付けてくる。私の気持ちを考えてくれない。この人は変わらない。そのことに、失望する。
私は深呼吸をして肩を上げると、ゆっくりと息を吐きだしながら、肩を下げた。
「私のお父さんは一人だけ! 昌幸さんが本当のお父さんだから!! だから、帰って!!」
「ゆらりってば、つめたぁーい。反抗期?」
甘えた口調で、拗ねてみせる母。
母は、私とは違って甘え上手。昌幸さんは優しくて面倒見のいい性格だから、母が浮気をしても非難せず、自分が至らなかったからだと自身を責めた。
でも、私は違う。
母が浮気をしたことも、私たちより彼氏を選んだことも、許せない。こうやって、悪びれた様子もなく会いにくることも許せない。
母に振り回されるのは、もう嫌だ。
「お母さんのこと、好きじゃない。もう来ないで。迷惑なの! 二度と会いたくない!!」
「ゆらり!」
私は振り返ることなく、走った。
「意地張らなくていいってば。弘治《こうじ》さんがね、あ、本当の父さんの名前、弘治さんっていうんだけどね、ゆらりに会いたいって。ゆらりの名前、弘治さんがつけたのよ」
「……バイトだから、じゃあ」
「休めばいいじゃない」
ゆらり、という名前を気に入っていた。でもそれは、記憶にない人がつけたものだった。
知りたくなかった。自分の名前を好きなままでいたかった。
母は無神経だ。昔からこうやって、自分本位な感情を押し付けてくる。私の気持ちを考えてくれない。この人は変わらない。そのことに、失望する。
私は深呼吸をして肩を上げると、ゆっくりと息を吐きだしながら、肩を下げた。
「私のお父さんは一人だけ! 昌幸さんが本当のお父さんだから!! だから、帰って!!」
「ゆらりってば、つめたぁーい。反抗期?」
甘えた口調で、拗ねてみせる母。
母は、私とは違って甘え上手。昌幸さんは優しくて面倒見のいい性格だから、母が浮気をしても非難せず、自分が至らなかったからだと自身を責めた。
でも、私は違う。
母が浮気をしたことも、私たちより彼氏を選んだことも、許せない。こうやって、悪びれた様子もなく会いにくることも許せない。
母に振り回されるのは、もう嫌だ。
「お母さんのこと、好きじゃない。もう来ないで。迷惑なの! 二度と会いたくない!!」
「ゆらり!」
私は振り返ることなく、走った。