キミの隣が好き
水都との距離が近づいたことに浮かれていたのに、母の登場で気持ちが沈んでしまった。
晴れ渡る空とは正反対に、心はどんよりと曇っている。
(自分勝手すぎる! 機嫌が悪いとどこかに行っちゃうくせに、機嫌がいいと猫みたいに寄ってくる。お母さんの喜怒哀楽に付き合うのは疲れる。振り回されるのは、もう嫌だ!)
会いたくない、というのが正直な感想。「お母さんのこと、好きじゃない」と言ったのも本当。
嫌いだと言い切れなかった自分に、モヤモヤする。
親子の情って、なんだろう。これが他人だったら嫌な人だって思って離れられるのに、母親だと割り切れない感情が出てきてしまう。
バイトが入っていることに感謝する。働くことに集中して、母のことを考えずに済む。
九時を少し過ぎた頃。コンビニの外から店内を覗く、二つの顔が見えた。ひよりとくるりだ。
店長に断りを入れてから、外に出る。
「どうしたの⁉︎」
「お姉ちゃん……」
ひよりが泣いている。私は二人をコンビニの裏に連れていった。
ひよりが涙をこぼしながら、たどたどしく話す。
「お姉ちゃんがバイトに行った後、お母さんが来たの。お父さんが仕事からまだ帰ってきていないって言ったら、家に上がってきて……」
「えっ……」
「最初ね、お金を貸してほしいって言われたの。でもそんなのできないって言ったら、そうだよねって」
お金? 私には、そんなことひとことも言っていなかった。どういうつもりなのだろう。
くるりが怒った口ぶりで、話に入ってきた。
「ボク、知っている! 前に、見ちゃったんだ。お父さんがお母さんにお金を渡しているところ。ボク、怒ったんだ。ボクもお姉ちゃんも、欲しいものを我慢しているのに、お母さんにお金を渡すのはおかしいって。お母さんだって我慢しないといけないって。お父さん、謝って、もう二度とお金を貸さないって。だからきっと、お母さんはこっそり来たんだ!」
くるりの衝撃的な告白に、私はうろたえた。父がお金を貸していることを知らなかった。けれど、父ならあり得ると思った。父は優しすぎる。強引なところのある母に、根負けしてしまったことが容易に想像できる。
つい先ほど。母は言った。「昌幸さんに会いづらくてぇ。険悪な感じで別れたから」
私はそれを、離婚のときの話だと思った。しかしそうではなく、お金を貸すのを断ったときの話なのだろう。
母は本当の父に会わせるために、私に会いに来たと言った。けれどもしかしたら、私からお金を借りたかったのかもしれない。
気の抜けた、乾いた笑いがこぼれる。
最低な母親でも、私は割り切れない親子の情を感じているのに、母にとって私はなんだろう?
晴れ渡る空とは正反対に、心はどんよりと曇っている。
(自分勝手すぎる! 機嫌が悪いとどこかに行っちゃうくせに、機嫌がいいと猫みたいに寄ってくる。お母さんの喜怒哀楽に付き合うのは疲れる。振り回されるのは、もう嫌だ!)
会いたくない、というのが正直な感想。「お母さんのこと、好きじゃない」と言ったのも本当。
嫌いだと言い切れなかった自分に、モヤモヤする。
親子の情って、なんだろう。これが他人だったら嫌な人だって思って離れられるのに、母親だと割り切れない感情が出てきてしまう。
バイトが入っていることに感謝する。働くことに集中して、母のことを考えずに済む。
九時を少し過ぎた頃。コンビニの外から店内を覗く、二つの顔が見えた。ひよりとくるりだ。
店長に断りを入れてから、外に出る。
「どうしたの⁉︎」
「お姉ちゃん……」
ひよりが泣いている。私は二人をコンビニの裏に連れていった。
ひよりが涙をこぼしながら、たどたどしく話す。
「お姉ちゃんがバイトに行った後、お母さんが来たの。お父さんが仕事からまだ帰ってきていないって言ったら、家に上がってきて……」
「えっ……」
「最初ね、お金を貸してほしいって言われたの。でもそんなのできないって言ったら、そうだよねって」
お金? 私には、そんなことひとことも言っていなかった。どういうつもりなのだろう。
くるりが怒った口ぶりで、話に入ってきた。
「ボク、知っている! 前に、見ちゃったんだ。お父さんがお母さんにお金を渡しているところ。ボク、怒ったんだ。ボクもお姉ちゃんも、欲しいものを我慢しているのに、お母さんにお金を渡すのはおかしいって。お母さんだって我慢しないといけないって。お父さん、謝って、もう二度とお金を貸さないって。だからきっと、お母さんはこっそり来たんだ!」
くるりの衝撃的な告白に、私はうろたえた。父がお金を貸していることを知らなかった。けれど、父ならあり得ると思った。父は優しすぎる。強引なところのある母に、根負けしてしまったことが容易に想像できる。
つい先ほど。母は言った。「昌幸さんに会いづらくてぇ。険悪な感じで別れたから」
私はそれを、離婚のときの話だと思った。しかしそうではなく、お金を貸すのを断ったときの話なのだろう。
母は本当の父に会わせるために、私に会いに来たと言った。けれどもしかしたら、私からお金を借りたかったのかもしれない。
気の抜けた、乾いた笑いがこぼれる。
最低な母親でも、私は割り切れない親子の情を感じているのに、母にとって私はなんだろう?