キミの隣が好き
「お姉ちゃん、ごめんなさい!!」

 ひよりの目から、新たな涙がこぼれた。

「お母さん。喉が渇いたから、お茶飲みたいって……。私とくるり、台所に行ったんだ。その間にお母さんが……」

 激しい嗚咽のせいで話せなくなってしまった、ひより。くるりが話を引き継ぐ。

「お母さん。いきなり用事を思い出したって言って、お茶を飲まずに帰ったんだ。家に来たときはエコバックを持っていなかったのに、帰るときはエコバックを持っていた。変だって思って、お姉ちゃんと部屋を調べたんだ。そしたら、お姉ちゃんの貯金箱がなくなっていた!」
「ごめんなさいっ!! 私が、ひくっ、家に上げたから、だからっ!!」
「大丈夫だから! 泣かなくていいからっ!」

 泣きじゃくるひよりを抱きしめる。目に涙を溜めているくるりも、抱き寄せた。するとくるりも、「わあ〜ん!」と堰を切ったように泣き声をあげた。

 父が借金を背負っているのは、祖父が会社経営で背負った借金のせいだけれど、母が父のクレジットカードで借金をしたからでもある。
 母の金銭感覚は変わっていないのだろう。
 ひよりとくるりを泣かせるなんて許せない。許せない許せない……怒りが心を占めて、苦しい。楽しい感情で心をいっぱいにしたいのに、現実は思うようにいかない。

 私は、二人に嘘をついた。

「貯金箱には、ちょっとしかお金が入っていなかったんだ。なかなか貯まらなくて。お母さん、開けてみて、これしかないのかってがっかりしていると思うよ。だから、泣かないで。ひよりもくるりも、なにも悪くない」

 二人を宥めて、家に帰した。
 その後。体調が悪いと店長に話して、仕事を切り上げさせてもらった。
 水都と待ち合わせをしている、近所にある小さな神社へと向かう。時刻は十時。待ち合わせ時間は一時半だから、当然ながら水都の姿はない。
 わたしは神社の片隅にあるベンチに座ると、耐えていた感情を解放し、思いきり泣いた。
 貯金箱は、もう少しでいっぱいになるところだった。再来月には焼肉食べ放題に行けるって、ワクワクしていた。
 夢がはじけ飛んだ。



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