キミの隣が好き
 水都が待ち合わせに指定した護摩神社は、鬱蒼とした森の中に小さな社がぽつんとあるの、こじんまりとした神社。
 人々の興味をかき立てる壮大な歴史があるわけではなく、神社を抜けて近道ができるわけでもない。しかも、段差の大きい階段を三十三段上がらないといけない。
 そういうわけで、参拝に訪れる人はほとんどいない。
 泣くにはうってつけの場所である。

 私は、人目を気にすることなく泣いた。そのうち、擦りすぎたせいでまぶたが痛くなってきた。しかもお腹が空いた。
 スマホの時計を見ると、十一時。水都との待ち合わせは一時半なので、だいぶ時間がある。
 私はからっぽのお腹と心を満たすべく、近くにあるスーパーで贅沢をすることにした。
 普段だったら絶対に買わない、高級アイスと高級プリンを買って、スーパーの端に設けられているイートインコーナーで食べる。フレッシュジュースも買いたかったけれど、二百円近い値段に怖気付き、イートインコーナーにある無料の水を飲む。

「飲み物にお金を払えないところが、貧乏人って感じだよね」

 高級プリンは美味しいけれど、甘すぎた。水を飲んで、口の中の甘さを流す。
 暇なので【つぶラン】を眺め、それにも飽きて、投稿する。

【ゆり@yurarinko・1分前
 お母さんに貯金箱のお金をとられた。昔から子供のものは自分のものだって、お年玉もとられていた。落ち込む。だけど今度こそ、さよならって突き放せるからいいや】
【ゆり@yurarinko・30秒前
 家族と焼肉食べ放題に行きたかった】

 自分勝手でわがままで金銭感覚ゼロの母親だけれど、それでも、いい思い出もあった。
 お祭りで買ってもらったりんご飴を不注意で落としてしまったことがある。怒られると思ったら、母は笑顔で「大丈夫よ。また買ってあげる。今度は落とさないように気をつけるのよ」と、同じ屋台でりんご飴を買ってくれた。
 そういう、母の優しさを感じたささやかな思い出が心から消えていかず、憎みきれなかった。
 今日はバイトがあるからと話を切り上げたけれど、あのまま話していたら、お金を貸してほしいと頼まれただろう。きっと、拒めなかった。

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