キミの隣が好き
「忘れよう。お金持ちにはなれない運命なんだ……」

 気持ちに区切りをつけると、トイレに向かった。顔を洗って、鏡に映る顔を点検する。
 目は若干充血しているけれど、まぶたは腫れていない。
 暗い雰囲気を払拭するために、笑顔を作る。すると、鏡の中の自分がぎこちなく笑った。

「水都に会いたくないな。でも、約束したから行かないと……」

 待ち合わせ時間には少し早いけれど、スーパーの外に出る。
 真っ青な秋の空を見上げているうちに、さきほどSNSに流した投稿への後悔が押し寄せてきた。
 警察に訴えたらどうですか? とコメントしてくる人がいるかもしれないし、悪意ある人たちが、ざまぁ笑えるwと中傷してくるかもしれない。
 母を訴える気はない。会わずにいたいというのが本音。
 そういうわけで、さきほどの投稿を二つ消した。

 護摩神社に着いたのは、一時十分。待ち合わせまで二十分も早いのに、社の前に水都が立っていた。

「あれ、水都? 早いね」
「うん、ちょっとね。お祈りしていた」

 水都は寂しそうに微笑むと、振り返って社を見上げた。その体勢のまま、言葉を足した。

「ゆらりちゃんが幸せになりますようにって、祈っていたんだ」
「私……?」

 顔を戻して再び私を見た水都。微笑んでいるものの、やはりどこか寂しそうで、尋ねずにはいられなかった。

「どうしたの? なにかあった?」
「僕は弱虫だった。ゆらりちゃんを守りたかったのに、守れなかった。そのせいで、ゆらりちゃんをつらい目にあわせたこと、ずっと謝りたかった。小学生のときのこと、ごめん。もう二度と、同じ失敗はしない。仲直りしたい。ゆらりちゃんを今度こそ、守るから」

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