キミの隣が好き
「恋愛に興味がないの?」
「そういうわけじゃないけど……」
「じゃあ、どうして? 水都なら、可愛い女の子と付き合えるのに」
「…………」

 水都は唇をぎゅっと結んだ。それから、怒ったような口ぶりで質問を寄越した。

「ゆらりちゃんは、僕が誰かと付き合っても平気なの?」
「え? えっと……そういうわけでは……。彼女がいないのが意外だったから、聞いてみただけなんだけど……」
「反対に聞くけど、ゆらりちゃんは彼氏いる?」
「ううん。いない」
「好きな人は?」
「あ……っと、それは……ナイショ……」
「内緒ってことは、好きな人、いるんだ?」

 私が好きなのは、水都。
 でもそれを、本人に言うわけにはいかない。それでは、告白になってしまう。
 水都はもしかして、私を好きなんじゃ……と思う気持ちはある。けれど、不安がつきまとう。
「ごめん。友達としての好きだから」と言われてしまったら、あと二年半の高校生活が苦しくなってしまう。
 ようやく仲直りできたのに、この幸せを壊したくない。

「教えなーい!」
「…………」

 冗談っぽく笑ったのに、水都は表情を消して無言になった。
 仲直りしたというのに、気まずい空気が漂う。


 水都と別れた後、私は家に帰りながら、SNSを更新した。

【ゆり@yurarinko・1分前
 悲しいことと嬉しいことがあった1日だった。人って、よくわからない】

 水都と仲直りできたのに、ぎこちなく別れた。水都は怒っているようだった。
 悲しみが連鎖して、昔のことを思い出す。
 母から、「スマホ見ているんだから、話しかけないで。空気読んでよ!」と怒鳴られたことがあった。
 私は空気が読めないから、水都の気に触ることを言ってしまったのだろう。

 涙がせり上がってきて、アパートの前にある駐車場で顔を覆った。

「嫌われたら、どうしよう……」

 私はどうすればよかったのだろう。好きなのは水都だって、言えばよかった?
 でも、怖くて言えなかった。

 時間を見るためにスマホを開くと、【ん】さんからコメントが来ている。

【ゆり@yurarinko・15分前
 嬉しいことと悲しいことがあった1日だった。人って、よくわからない】
 ↓
【ん@supenosaurusu・10分前
 ごめん。僕が触れたいのは、キミだけです】

 スマホの画面が涙で歪む。
 相手が誰なのかわかったうえで、私たちは【つぶラン】でコメントのやり取りをしている。
 そのことが、はっきりとわかった。

【ん@supenosaurusu・15分前
 ごめん。僕が触れたいのは、キミだけです】
 ↓
【ゆり@yurarinko・5分前
 私は鈍感だし空気が読めないし可愛くないけれど、それでもいいの?】
 ↓
【ん@supenosaurusu・3分前
 僕は過敏すぎるし空気を読みすぎるから、ちょうどいいです。これ以上可愛くならないでください。ライバルが増えると困る】
 ↓
【ゆり@yurarinko・1分前
 ありがとう(୨୧•͈ᴗ•͈)◞ᵗʱᵃᵑᵏઽ 仲直りできて嬉しい! 離れていた8年の溝、埋めていこうね】
 ↓
【ん@supenosaurusu・30秒前
 うん!!】

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