キミの隣が好き
 魅音は鞄からお弁当を取り出すと、星柄のお弁当包みを開いた。
 私は魅音の前の席に座る。すると水都は自分の椅子を持ってきて、魅音の机にお弁当箱を置いた。
 岩橋くんも同様に椅子を持ってきて、私と魅音の間に陣取った。
 魅音は不機嫌になった。

「密集度が高くて、暑苦しいんですけど」
「僕もそう思う。岩橋くんは自分の席に戻って」
「冷たいこと言わないでよぉー! いいじゃん。おっ⁉︎ 鈴木さん、おにぎり二つだけ? ダイエットしているの?」
「ううん。そういうわけじゃなくて、朝忙しくて……」
「えっ? もしかして、自分で作っている?」
「うん。お母さんいないんだ。朝ご飯の他にもお父さんのお弁当も作らないといけなくて、自分のは適当」
「鈴木さん、えらいー! マジ感動した!! 好感度アップ。惚れそう! っていうか、惚れた!!」

 岩橋くんは軽い。茶目っ気のある表情から冗談で言っているのだろうとわかるけれど、惚れたとか気軽に言わないでほしい。
 どう返していいかわからなくて、無言でおにぎりのラップをはがしていると、私の隣にいる水都がムスッとした。

「ゆらりちゃんに話しかけないでくれる?」
「別にいいじゃん」
「ダメー」
「なんで水都の許可を得ないといけないわけ? 俺は、気になる子には声をかける主義なんで」

 岩橋くんは動かしていた箸を止めると、いきなり私の顔を覗き込んだ。

「俺もさ、ゆらりちゃんって呼んでもいい?」

 突然の急接近に驚いてしまい、「きゃっ!」と小さく悲鳴をあげて、のけぞってしまった。その拍子に、肘が水都の体に当たってしまう。

「あっ! ごめん!! 痛かった?」
「ううん。平気」

 チャラい岩橋くんとは違って、水都の落ち着いた態度とクールな口調は、私に安心感をもたらす。
 安堵の笑みをこぼすと、水都は軽く目を見開いた。それから、優しい表情でふわっと笑った。

「岩橋ぃー、諦めろー。この甘ったるい空気に、君がつけ入る隙はない!!」
「諦めない! 水都に挨拶したゆらりちゃんのキュートな笑顔に、ダイヤの原石を見つけたんだ!」
「岩橋がダイヤの原石を見つけたのは、今朝。だがライバルは、幼稚園のときにすでに発見しておる」
「でもさ、マンネリって言葉があるだろっ! 二人は幼馴染なんだろう? 長く一緒にいたら飽きるじゃん。そこを狙って……」
「岩橋くん」

 魅音と岩橋くんの会話に、水都が混ざった。

「ゆらりちゃんって呼ばないでくれる? ゆらりちゃんって呼んでもいいのは、幼馴染である僕だけの特権だから。高校で出会った人は、ちゃんづけで呼んではいけないルールになっている」
「そんなルール、聞いたことがない! 勝手に作るな!」
「はいはーい! うちにもツッコませて。水都くんの幼馴染ってゆらりだけじゃないよね? 他の幼馴染の女子にも、ちゃんづけで呼んだらどうですかぁ?」
「他の幼馴染……記憶にない……」

 真顔で答えた水都に、お茶を飲んでいた魅音は盛大に吹きだした。魅音の口から出たお茶は、岩橋くんのお弁当の中身にかかり、大騒ぎになったのだった。

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