キミの隣が好き
翌日の朝。トイレに行った帰りに、杏樹と出くわした。私と杏樹は笑顔で挨拶を交わす。
教室に入ろうとすると、魅音が呆然とした顔で突っ立っていた。
「あ、おはよう。具合はどう? 風邪治った?」
「あ、ああ、な、なに今の?」
「うん?」
「こっち来い! 尋問だ!!」
魅音に制服の袖を引っ張られて、階段の踊り場へと連れて行かれる。
「川瀬杏樹と話していたよね⁉︎ 脅されている⁉︎」
「あのね、昨日の電話では言わなかったんだけど……」
杏樹が謝ってきたことを話した。
魅音は壁に背中を預け、腕組みをしながら黙って聞いていたのだけれど、話が終わると開口一番に、「卑怯な女!」と吐き捨てた。
「卑怯?」
「だって、いじめた側が許してほしいって言うのは無神経じゃない? 許してほしいと頼まれたら、いじめられた側は困るでしょう? 許したくなくても、許さないといけないと思ってしまう。許せない自分は心が狭いって、罪悪感を持つかもしれない。それって、精神的苦痛じゃない? うちはさ、許す許さないは、いじめられた側が決めることだと思う。いじめた側は求めちゃいけない。だって許しを求めるのって、自分のためじゃん。相手の気持ちよりも、自分の心の安定のためでしょう? そういうのって、うち、嫌い。杏樹は、ゆらりのために謝罪したんじゃない。自分が許されたいっていう、身勝手な行動にしか思えない」
魅音の言葉がストンと心に落ちた。
杏樹を許せない自分を、心が狭い人間だと責めていた。小学生二年生の私が、(私、まだ許したくないよ。だって、教科書を破られたり、ノートにバカとかブスとか死ねとか書かれたこと、すごく傷ついた)と訴えている。
私はポケットからハンカチを取りだすと、濡れている頬を拭いた。
鼻を啜った私に、魅音は慰めの言葉をくれる。
「自然と許せるようになったらそれでいいし、もし許せなかったら、それはそれでいいと思うよ。うちなんか、許せない人が軽く百万人はいる! まず、動物虐待するヤツは絶対に許さん!」
「ふふっ、百万人って多すぎ」
笑いがこぼれて、心が軽くなる。
魅音は、こういうところが上手だ。私を悲しみに浸らせない。ずっとは泣かせてくれない。笑いに持っていって、明るい気分にさせてくれる。
友達とは、一緒にいて心地良い関係のことを言うのだと思う。
押しつけられた友達関係は、本当の友達じゃない。心の傷を見ないフリして杏樹と仲良くするのは、苦しい。
魅音は壁から背中を引き離すと、不機嫌になった。
「いじめた女と友達になるなんて、嫌がらせか? ゆらりの心の傷を抉っているようにしか思えない。うちは、杏樹を敵だと認定する。よって、魅音警部補の出番だ!!」
「どういうこと⁉︎ なんで魅音警部補?」
魅音は唇の端をニヤリと上げた。
「敵を追い詰めるには、情報を集めないとね。情報屋に接触するから、しばし待て」
魅音は変わっている。けれど頼もしくて、大好きな友達だ。
教室に入ろうとすると、魅音が呆然とした顔で突っ立っていた。
「あ、おはよう。具合はどう? 風邪治った?」
「あ、ああ、な、なに今の?」
「うん?」
「こっち来い! 尋問だ!!」
魅音に制服の袖を引っ張られて、階段の踊り場へと連れて行かれる。
「川瀬杏樹と話していたよね⁉︎ 脅されている⁉︎」
「あのね、昨日の電話では言わなかったんだけど……」
杏樹が謝ってきたことを話した。
魅音は壁に背中を預け、腕組みをしながら黙って聞いていたのだけれど、話が終わると開口一番に、「卑怯な女!」と吐き捨てた。
「卑怯?」
「だって、いじめた側が許してほしいって言うのは無神経じゃない? 許してほしいと頼まれたら、いじめられた側は困るでしょう? 許したくなくても、許さないといけないと思ってしまう。許せない自分は心が狭いって、罪悪感を持つかもしれない。それって、精神的苦痛じゃない? うちはさ、許す許さないは、いじめられた側が決めることだと思う。いじめた側は求めちゃいけない。だって許しを求めるのって、自分のためじゃん。相手の気持ちよりも、自分の心の安定のためでしょう? そういうのって、うち、嫌い。杏樹は、ゆらりのために謝罪したんじゃない。自分が許されたいっていう、身勝手な行動にしか思えない」
魅音の言葉がストンと心に落ちた。
杏樹を許せない自分を、心が狭い人間だと責めていた。小学生二年生の私が、(私、まだ許したくないよ。だって、教科書を破られたり、ノートにバカとかブスとか死ねとか書かれたこと、すごく傷ついた)と訴えている。
私はポケットからハンカチを取りだすと、濡れている頬を拭いた。
鼻を啜った私に、魅音は慰めの言葉をくれる。
「自然と許せるようになったらそれでいいし、もし許せなかったら、それはそれでいいと思うよ。うちなんか、許せない人が軽く百万人はいる! まず、動物虐待するヤツは絶対に許さん!」
「ふふっ、百万人って多すぎ」
笑いがこぼれて、心が軽くなる。
魅音は、こういうところが上手だ。私を悲しみに浸らせない。ずっとは泣かせてくれない。笑いに持っていって、明るい気分にさせてくれる。
友達とは、一緒にいて心地良い関係のことを言うのだと思う。
押しつけられた友達関係は、本当の友達じゃない。心の傷を見ないフリして杏樹と仲良くするのは、苦しい。
魅音は壁から背中を引き離すと、不機嫌になった。
「いじめた女と友達になるなんて、嫌がらせか? ゆらりの心の傷を抉っているようにしか思えない。うちは、杏樹を敵だと認定する。よって、魅音警部補の出番だ!!」
「どういうこと⁉︎ なんで魅音警部補?」
魅音は唇の端をニヤリと上げた。
「敵を追い詰めるには、情報を集めないとね。情報屋に接触するから、しばし待て」
魅音は変わっている。けれど頼もしくて、大好きな友達だ。