キミの隣が好き
 三日後。魅音は本当に情報を仕入れてきた。

「三組の子に聞いたところ、川瀬杏樹はみなっちの他に、野球部の谷先輩が好きらしい。これは使える!」
「なに? どういうこと?」
「岩橋って、谷先輩と同じ少年野球チームに入っていたんだって。知り合いってわけだ。その岩橋情報によると、谷先輩は野球はうまいが、クズ男。モテるからって調子に乗って、次々に彼女を変えているらしい。で、今狙っているのは、高梨ひな。だが三組の友達によると、ひなは、谷先輩にも野球にも興味なし。見事に全員の気持ちがすれ違っている。これを利用して、仕返しをする!!」

 魅音の目がランランと輝いている。私のために仕返しを考えてくれたのだろうけれど、不安しかない。

「ねぇ、なにをするの?」
「クズ女には、クズ男をぶつけるんだよ!!」
「えぇっ⁉︎ あ、あの、私は大丈夫だから。川瀬さんと距離を置くことにするし。だからね、なにもしなくていいよ。魅音が巻き込まれたら嫌だよ」
「うちを心配するよりも……」

 魅音の拳が、わたしの頬をぐりぐりと押してきた。

「いたたっ!」
「スペノサウルスが泣いているぞ。どうにかしなさい!」
「スペノサウルスって……」

 話し終えた魅音は、合唱部の練習に行くべく帰り支度を始めた。私はベランダに出ると、制服のポケットからスマホを出した。
 杏樹のことで頭がいっぱいになっていて、【つぶラン】を見ていなかった。

【ん@supenosaurusu・10月22日
 ゆのつく人と一緒に帰りたい( ; ; ) 】

「あ、本当だ。スペノサウルスが泣いている」

 水都から帰ろうと誘われても、杏樹や他の生徒の目が気になって断っていた。
 けれどもう、人の目を気にするよりも、水都との関係を大切にしたい。それに、人の目を気にするのに疲れた。

 コメントを入れようとして、指が止まる。【ん】さんのつぶやきに、コメントがついている。

【ん@supenosaurusu・10月22日
 ゆのつく人と一緒に帰りたい( ; ; ) 】
 ↓
【わおーん@songlove12・10月22日
 いいことを教えてあげよう。あの子は猫が好きだ。家に猫がいるからおいでって誘ってごらんなさい】
 ↓
【ん@supenosaurusu・10月22日
 家に!?】
 ↓
【わおーん@songlove12・10月22日
 あの子は奥手だ。このままでは進展しない。強引にいけ! 押し倒せ!!】
 ↓
【ん@supenosaurusu・10月22日
 押し倒したら嫌われる⤵︎ でも家には誘いたい。だけど猫いない;_;】
 ↓
【わおーん@songlove12・10月22日
 うちの猫を貸す。おとなしいから大丈夫】
 ↓
【ん@supenosaurusu・10月22日
 ありがとうございます!!】

 なにこのやり取り⁉︎ 猫を貸すって、おかしくない⁉︎
 魅音の猫は凶暴だし、水都は猫アレルギー。

「無理だよ。絶対にダメだから」

 二人のやり取りに呆れていると、上から声が降ってきた。

「ゆらりちゃん、ここにいたんだ。あのさ……猫って、好き?」

 水都が緊張している声で、質問をしてきた。 

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