キミの隣が好き

水都目線②

 今日は母の誕生日。母のリクエストで寿司屋に来ている。
 政治家や金持ちや有名芸能人などが来る店だそうで、新鮮なネタに見合ったいいお値段がする。
 僕たちは個室でゆっくりと食事を楽しむ。

「水都は気難しくて、どんな子になるんだろうって、お母さん心配だったのよ。でも、最近楽しそうで良かった」

 母はマグロを箸で挟みながら、にっこりと笑った。
 中学時代。僕は部屋に引きこもっていて、外食に誘われても断っていた。
 父が「思春期の男子は、親と出かけたくないものだ」と母を慰めているのが聞こえてきて、(思春期という言葉で片付けるな!)とモヤモヤした。
 あの頃は自分でも感情を持て余していて、どうしたらいいかわからずにいた。
 そんな僕が母の誕生日祝いに寿司屋にいるのだから、人生って不思議なものだ。
 言おうかどうか迷った末に、僕は思いきって心情を吐露した。

「今まで苦労かけて、ごめん。これからは、大丈夫だと思う」

 母は資産家の一人娘で、労働とか苦労とか節約とかを知らずに育った人。
 そんな母にとって僕という子供が生まれたのが、初めての障害であり、苦労の始まり。
 子供の頃の僕は洋服が気に入らずに癇癪を起こしたり、食が細くて、母の作った料理を毎回残した。また、しょっちゅう体調を崩しては病院に通った。
 母にたくさんの苦労をかけてしまったこと、申し訳なく思っている。
 現在の僕は体力がつき、イヤなものとの折り合いもついて、うまくやっている。
 けれど、母の望む理想的な道を歩んでいるわけではない。母の望む私立の進学校ではなく、県立高校に通っている。
 そのことが心苦しいのだと付け加えたら、母は涙ぐんだ。

「気にしていたなんて知らなかった。お母さんのほうこそ、ごめんなさい。理想を押し付けてしまったけれど、水都が幸せでいてくれることが一番の望みなの。学校、楽しい?」
「うん」
「そう。合っているのね。楽しいと思う場所、見つけられて良かったね」

 父はビールをグイッと飲み干すと、赤ら顔に笑顔を乗せた。

「高校生になって、明るくなったな。成功者とは、生きていることを幸せだと思える人生を送った人だ。後悔しない人生を送るんだぞ」
「うん」

 僕は両親の幸せのハードルを低くしてしまった。けれど、二人とも嬉しそうに笑っているので、親孝行というものができているのではないかと思った。
 もちろん物理的にはまだまだだけれど、少なくても、僕たちは普通に話せるようになった。
 やっと、本物の家族になれたような気がする。


 
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