キミの隣が好き
 そして、今。
 佐々木萌華から『杏樹ちゃん。ゆらりって子の悪口言っていたよ』とメールがきた。
 僕は『それいつの話? なにを言ったの?』と送信した。
 僕から返事がきたことが嬉しいのか、萌華からすぐにメールがきた。

『二人で会ってくれるなら、話してあげる!』

「めんどくさーい!!」

 僕はスマホを投げ出すと、ベッドに倒れ込んだ。
 佐々木さんの母親はイタリア人。だからというわけではないと思うのだが、積極的で困る。

「佐々木さんに会うのを、ゆらりちゃんに誤解されたら嫌だ。高梨さんのことも、めんどくさい」

 町田さんは、杏樹に仕返しをしようと企んでいる。
 杏樹が野球部の谷先輩を好きだと知り、ちょっといい感じにさせてから関係をぶち壊すと息巻いている。
 谷先輩は、高梨ひなが好きらしい。
 そういうわけで町田さんは僕に、高梨さんに協力してくれるように頼んでほしいと言ってきた。
 僕は以前、高梨さんに告白された。振ったのに、協力を頼むなんて気が進まない。
 やりたくない、というのが正直な感想。けれど、町田さんは我が強い。しかも暴走している。

「目には目を歯には歯を、作戦だよ!! 川瀬杏樹みたいな自己中人間は、説教したって無駄。自分が痛い目に合わないとわからないタイプだよ! ゆらりとみなっちの仲を引き裂いたじゃん。それと同じことをするだけだよ! 因果応報ってやつ!」

 僕はゆらりちゃんを正攻法で守りたい。けれど、町田さんは裏で画策したいタイプ。
 僕も町田さんもゆらりちゃんを守りたいという点では同じだけれど、考えが異なる。

「意地悪な相手と同じことをしたら、自分も嫌な人間になると思うんだけど……」

 町田さんは友達思いだけれど、過剰なところがある。どうやって暴走を止めよう?
 
「川瀬さん、町田さん、佐々木さん。どうしよう。悩むことが多すぎる! 人が苦手なのにーっ!!」

 ベッドの上でゴロゴロと転がりながら悩んでいると、【ゆり】さんから返信が届いた。

【ゆり@yurarinko・4時間前
 人生初カットモデル! 美容室初めて!! いつも家族が切ってくれていたから。どんなふうになるのかな。ドキドキ(*´︶`*)♡】
 ↓
【ん@supenosaurusu・3時間前
 短くするんですか?】
 ↓
【ゆり@yurarinko・1分前
 友達が勧めた髪型にしました】
 

「友達って書いちゃダメ! 同級生でいいから!!」

 ゆらりちゃんは最初、岩橋を警戒していた。けれど、岩橋がカモフラージュ作戦をしていると知って、警戒心を解いてしまった。

「岩橋、絶対にあわよくばって思っているから!! ゆらりちゃんが岩橋にぐらつくことはないと思うけれど、でも……」

 唸っていると、岩橋から写真が送られてきた。
 
 ピンク色の服を着た人が、子猫を抱いている写真。人の顔は映っていない。

 岩橋から文章が届いた。
『ゆらりちゃん。ピンクのワンピース着てきた。めっちゃ可愛かった😍』

 速攻、怒りのメールを送る。

『ムカつく。顔入りの写真欲しい。あと、ちゃんづけで呼ぶな!』

 岩橋がまた写真を送ってきた。今度は顔入り。だが……岩橋の顔のドアップ。

「最悪!! わざとだな!」

 気力が根こそぎ奪われた。癒しを求めて、【ゆり】さんの投稿にコメントを入れる。

【ゆり@yurarinko・5分前
 アメショー可愛い❤️ また抱っこしたいな】
 ↓
【ん@supenosaurusu・3分前
 僕とアメショーと猫の飼い主。誰が一番好きですか?】
 ↓
【ゆり@yurarinko・1分前
 ふふっ(*^^*) 名前に『ゆ』がつく人が好きです】

 僕の名前は、由良《ゆら》水都《みなと》。ゆがつく。
 岩橋のフルネームは、岩橋《いわはし》結斗《ゆいと》。ゆがつく。

「ゆらりちゃんって天然すぎる! 『み』にすればいいのに!!」

 ゆらりちゃんはしっかりしているようで、ところどころ抜けている。
 でもそんなところも可愛いと思ってしまうので、恋は偉大だ。


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