キミの隣が好き

川瀬杏樹目線②

 お姫様になりたかった。絵本を開いては、お姫様のドレスや髪型や、素敵な王子の登場に胸をときめかせた。
 シンデレラは舞踏会で王子様に見染められ、目覚めた白雪姫は王子様に求婚された。眠れる森の美女は王子様のキスで目が覚めた。
 お姫様と素敵な王子様はセットなのだ。
 それなのに──。

「なんでうちは焼き鳥屋さんなの! こんなの嫌だぁーー!!」

 わんわんと泣く私を、母が慰める。うちの焼き鳥を買いに遠方から来る人もいるのだと話す。
 そういうことじゃない。うちの焼き鳥を買いに、人気アイドルやハリウッドスターが来たとしても、私は恥ずかしさに泣くだろう。
 だって、考えてみて。お姫様の家が焼き鳥屋。ミスマッチすぎる。私は生まれる家を間違えたのだ。王子様が焼き鳥屋に来るわけがない。

 そういうわけで私は、幼稚園生の頃から人一倍身だしなみに気を使っていた。特ににおいには敏感。ヘアコロンは欠かせない。
 焼き鳥屋の娘だとバレないようにしよう。おしゃれな女の子を目指そうと、子供心に強い決意を持っていた。

 小学校に入り、素敵な王子様に出会った。名前は、由良水都くん。
 由良くんは、貧乏で地味でダサくてとろくて気が弱くて秀でたところのない鈴木ゆらりと仲が良かった。
 けれど──……。
 正直に、告白する。
 鈴木ゆらりは、魅力的な笑顔を持っていた。こんなにも人の心を惹きつける素敵な笑顔の人がいるのだと、衝撃を受けた。
 ゆらりの笑顔は、柔らかなサーモンピンク色の薔薇みたいだった。可憐で初々しくて、人の心に明るさと安らぎをもたらす。
 私はその薔薇をむしってやりたくなった。
 だから、いじめてやった。ゆらりから笑顔が消えた。お姫様の座から、引きずり下ろせた。勝ったって、思った。


 
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