キミの隣が好き
「ゆらりちゃん、おはよ!」
「おはよう」

 廊下でぶらりを見つけて、明るく声をかける。
 初めて、私から挨拶をしたとき。動揺したぶらりは、気弱な声で「えっ? あ……お、おはよう、ございます……」と、どもった。
 けれど今では、スムーズに挨拶を返してくる。
 私は笑顔を浮かべながらも、内心では、ほくそ笑む。

(本当に友達になったと思っているわけ? バッカみたい!)

 私はわざと、「謝ったから許してくれるよね」「今日から友達ね」と押しつけた。ぶらりの気持ちを聞くことなく。
 予想通りぶらりは、表情を強張らせた。けれどぶらりは、嫌だと言わなかった。これも予想通り。気の弱い女だ。

「二人の恋を応援するね」

 心にもないことを言うと、ぶらりは「ありがとう」とお礼を言った。

「私を気にすることなく、由良くんと付き合っていいよ」

 やはりぶらりは「ありがとう」と言い、はにかんだ。

 調子に乗んなっ!! ありがとうじゃねーよ!! そこは「私なんて……」って謙遜しろよ!!
 
 腹が立ってしょうがない。ぶらりは私をイラつかせる天才だ。
 私は昔から、ぶらりが大嫌いだった。

 小学校時代。母親たちが立ち話をしているのを、何食わぬ顔で、でも耳を澄ませて聞いた。
 ぶらりは、妹弟とは父親が違うんだってね。母親は自由奔放な人で、勤め先で人間関係のトラブルをしょっちゅう起こしているんだってね。借金を抱えているのに、母親は金銭感覚ゼロなんだってね。
 ぶらりの靴下に穴が開いているのを知っているよ。新しい靴下を買ってもらえないなんてかわいそう。みじめだね。

 それなのにどうして、そんなに綺麗に笑えるの? 毒親に育てられているのに、優しい心を持ち続けているなんて、童話のお姫様のようじゃない。
 泥水をぶっかけてやりたくなる。
 
 私は醜い。幸せな人間も美しい人間も心が綺麗な人間も、祝福できない。
 でもそれって、私だけじゃないでしょう? 
 才能が突出していたり、環境に恵まれている人間を妬んで、中傷することに快感を覚える人々がいる。直接的にまたはSNSを使って、幸せそうな人の足を引っ張る。
 そんな人たちに、顔をしかめる人がいる。でも心の中では、人生がうまくいっている人を苦々しく思っているんじゃない? あなたが行動に移せない妬みを、他人が行動に移しているだけだよ。

 
 
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