キミの隣が好き
 由良くんの視線の先に変わらずにぶらりがいることに、嫉妬が燃えあがる。
 いじめてやったのに、それでも真っ直ぐな心を失わないぶらりに、はらわたが煮え繰り返る。
 だから私は親切な友達のふりをして、ぶらりを不安に落としてやることにした。

「由良くんとゆらりちゃんって仲良いみたいだけど、もしかして付き合っている? って噂になっているよ。ゆらりちゃんを呼び出して、もし付き合っているなら懲らしめるって言っている子もいて……まずいんじゃない?」
「高梨ひな、わかる? 前に、由良くんに振られた子。あの子、すごい可愛いじゃない。フラれたのが初めてだったみたいで、かなりショックだったらしい。ゆらりちゃんの噂がひなの耳に入ったら、私を振ったくせに、ダサ子と付き合うなんて許せないって、絶対に怒るって!」

 嘘だよ。
 噂になっているのは、町田魅音が由良くんを「みなっち」と呼んで、仲良くしているということ。
 由良くんにフラれた高梨ひなは、「男を追いかけるなんてミジメなことしたくない」と、自分に好意を寄せる男子にシフトしている。

 でもぶらりはアホだから、私の嘘を信じた。距離を置くと約束した。それなのに、その日の放課後。

「ごめんね。距離を置くのは無理だった。噂になっても大丈夫なように、頑張ってみる」
「なにを頑張るの?」
「おしゃれとか、勉強とか。ちょっとでも水都と釣り合いがとれるように、頑張る」

 ねぇ、バカすぎて呆れるよ。私、嘘をついたんだよ? 私のこと、少しは疑いなよ。
 純粋に生きるのもいい加減にしなよ。世の中、汚い人間がたくさんいるって知ったほうがいいよ。

 シンデレラストーリーに憧れはあるが、シンデレラよりも白雪姫のほうが好き。
 白雪姫は結婚式に継母を呼び、焼いた鉄の靴を継母に履かせて死ぬまで踊らせた。復讐心があっていいよね。
 ぶらりも白雪姫みたいに、私に復讐してもいいのに。
 ぶらりが「ざまあみろ!」って嘲笑ったその瞬間、私は心の中で喝采を送ってあげる。やっと、綺麗な心を失ってくれたねって。
 白雪姫の継母は熱い鉄の靴を履いて踊りながら、笑って見ている白雪姫に満足したんじゃないかな。汚れた女になったね。おまえはもう、一番美しい女ではなくなった。ざまあみろってね。

 
 
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