キミの隣が好き
 ロングホームルームの時間。担任の先生は、来月行われるマラソン大会の話を始めた。
 マラソン大会は、一年生が参加する、我が校の伝統行事。コースは、学校の裏にある山。
 整備されたコンクリート道なので走りやすくはあるのだけれど、傾斜がきつい。
 女子は中腹までの往路三キロ。男子は山頂までの往路五キロ。
 マラソンが苦手な生徒は、当日大雨になることを祈っているらしい。走るのが苦手な魅音も、その一人。
 私は走るのが得意なので、マラソン大会を心待ちにしている。

 先生の話を聞いていると、隣の席から腕が伸びてきて、私の机に青い付箋紙が貼られた。
 
『ゆりさんの好きな人。《ゆ》と《み》の他になにがつくの?』

 そんなの答えられない。聞いてこないでよ! って、むくれてしまう。
 だから私は黄色い付箋紙いっぱいに、『内緒!!』と書いて、水都の机にサッと貼った。
 水都の肩が揺れた。笑いを押し殺しているらしい。
 水都の手がまた伸びてきて、私の机に青い付箋紙をペタリと貼った。

『んさんの好きな人。《す》と《ず》と《き》と、《ゆ》と《ら》と《り》がつくらしいよ』

 これって、告白⁉︎
 心臓がドクドクと波打って、顔が熱くなる。
 どう返事をしたらいいのかわからずに戸惑っていると、また青い付箋紙が貼られた。

『ゆりさんの好きな人、教えて』

 もぉ!!
 黄色い付箋紙をペタッと、水都の左腕に貼ってやる。

『知らない! 先生の話を聞きなさーい!! ٩( 💢•̀ з•́)و』

 水都がククッと笑った。
 怒り顔のイラストをつけたのに、効果なし。
 頬を膨らませてむくれていると、また青い付箋紙が机に貼られた。

『マラソン大会で勝負しよう。負けた人が、勝った人に焼き肉を奢る』
『いいの? 私、本気で走るよ』
『いいよ』

 私は走るのが得意。小学校の六年間、運動会でリレーの選手に選ばれた。対して水都は、普通。遅いわけではないけれど、走りで一位を取ったのを見たことがない。
 アクシデントがない限り、私が勝つと思うのだけれど……。

 ロングホームルームが終わり、私は直接、水都に勝負のことを聞いてみた。すると、もし水都が負けたら、私の家族全員に焼肉を奢るとのこと。
 私は全力で、首を横に振った。
 
「そんなの悪いよ! くるりはお肉が大好きだから、たくさん食べると思うし、ひよりは甘いものが好きだから、デザートを頼むかも。お会計がすごいことになっちゃう!」
「十万円いく感じ?」
「まさか!!」
「だったら問題ない。みんなで焼き肉を食べよう。僕から賭けを持ち出したんだから、気にしないで」

 水都は焼き肉を賭けて勝負すると言って、一歩も引いてくれない。私は納得できないものの、渋々了承した。


 
< 84 / 132 >

この作品をシェア

pagetop