竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
 薄暗い廊下をランプ片手に歩きながら、シェイラは夕食の時のことを思い返す。

 イーヴの食事を作りたいと意気込んでみたものの、料理なんて今までしたことがなかったから、正直なところシェイラが担当したのは飾りつけや材料を混ぜることくらいだった。本当はもっと色々としてみたかったのだけど、野菜を切る手伝いを申し出たら、指先をちょっと刃が掠っただけで顔面蒼白になったアルバンにナイフを取り上げられてしまったのだ。

 指先に残る傷を見ながら、シェイラは小さく笑う。イーヴの唇のあたたかさも、柔らかく傷口をなぞった舌の感触も、今でもはっきりと思い出すことができる。あの唇が、もっと他の場所に触れたなら、どんな気持ちになるだろう。



 シェイラの下手くそな盛りつけも、イーヴは嬉しいと笑ってくれた。嫌われていることはないと断言できるけれど、かといって愛されているかというとそれは違う気がする。

 イーヴがシェイラに向ける優しい表情は、まるで小さな子供を見るようなものだから。

 まずは、子供なんかではないことをイーヴにも分かってもらわなければ。

 黒い扉の前で、シェイラは前開きの寝衣のボタンをいつもより多めに外した。ルベリアほどではないけれど、シェイラだって結構胸は大きい方だと思う。しっかりと胸の谷間が見えていることを確認してから、シェイラはドアをノックした。
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