竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
 翌朝目覚めたシェイラは、隣で眠るイーヴに視線を向けた。

 寝る前に宣言した通り、彼は少しシェイラと離れた場所で眠っている。手を伸ばせば届くはずなのに、触れることのできないその距離が、今の二人の関係をあらわしているようだ。

 だけどほんのりとイーヴの体温を感じられるような気がして、シェイラはこみ上げる幸せに小さく笑う。誰かと一緒に眠るのなんて初めてだけど、隣に自分のもの以外のぬくもりがあるというのは、とてもいい。

 気配を感じ取ったのか、イーヴが低く呻いて目を開けた。丸い月のような金の瞳に、寝起きのシェイラが映っている。

「おはようございます、イーヴ」

「あぁ、おはよう、シェイラ。よく眠れたか?」

「はい、とっても! 隣に誰かのぬくもりがあるのって、幸せですね。すごくよく眠れました」

 与えられた自室のベッドも寝心地はいいものの、広すぎて時々心細くなるのだ。ラグノリアでの生活はいつもひとりだったのに、ここに来てからは誰かと過ごすことに慣れすぎてしまった。

「……そんなことを言われたら、もう一人で眠らせたくなくなる」

 少しだけ困ったように、だけど笑ってイーヴはシェイラの頭を撫でてくれた。

「それって」

「うん。シェイラが望むなら、ここで寝ても構わない。ひとりで寝たい時もあるだろうから、寝室をこちらに移すことはしないけど」

 ただし、と言ってイーヴは真剣な表情を浮かべる。

「昨夜と同じ、何もしないことが条件だ。ただ一緒に眠るだけ。それと、シェイラは寝衣をちゃんと着ること」

「分かりました!」

 間髪入れずうなずくと、優しい笑みが降ってきた。夜の営みへの道は遠そうだけど、毎日一緒に寝られるだけでも大きな前進だ。ついでとばかりに、シェイラは小さく首をかしげてイーヴを見上げた。

「あのね、おやすみのキスは……してくれますか?」

「そ、れは……うん、まぁ、それくらいなら」

 驚いたのを誤魔化すように咳払いをして、イーヴは視線を逸らしたままうなずく。一晩で彼との距離が随分と縮まったような気がして、シェイラは嬉しさを嚙みしめるようにブランケットをぎゅうっと抱きしめた。

 本当はイーヴに抱きつきたかったことは、秘密だ。





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