竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
「イーヴは、私に触れられるのが嫌?」

「そんなことは、ないけど」

「じゃあ、どうしてだめなの? もっと触れたいって思ってるのは、私だけなの?」

「どうしてって……それは」

 ため息をついてイーヴが髪をかきむしるように頭を抱えた。その横顔がうんざりしているように見えて、シェイラの胸がチクリと痛む。こうして一緒に寝てもらっているのもシェイラの我儘なのに、それ以上を求めてしまうことが嫌になる。自分がこんなにも、欲深かったなんて。

 しゅんと落ち込んでもう寝ようと小さく謝罪の言葉を口にしかけた時、イーヴが低い声で名前を呼んだ。

「シェイラ、こっちにおいで」

「え……」

 戸惑っていると手を引かれ、シェイラの身体はイーヴの腕の中に包まれた。思いがけないぬくもりに驚いたものの、シェイラはそのまま彼の胸に頬をすり寄せた。イーヴの手はゆっくりとシェイラの頭を撫でていて、この行動の理由は分からないけれど、幸せな気持ちがこみ上げてくる。



「こうするのが好きか」

「うん。あたたかくて、すごく幸せな気持ちになれます」

「そうだな」

 小さくうなずいたイーヴは、再び慈しむように髪を撫でながら口を開いた。

「シェイラはきっと、人のぬくもりに飢えてる」

「人のぬくもり?」

「そう。ラグノリアでは、誰とも会うことなく部屋の中でひとりきりで過ごしていたんだろう」

 イーヴの言葉に、かつての生活が頭の中によみがえる。狭い部屋でずっと、誰にも会うことなく過ごした日々。どうせ生贄になって別れる日が来るのだからと、顔も見てくれなかった両親。自分の存在をまるで忘れられているかのように感じて、孤独感を覚えたこともある。

 ラグノリアにいる時はそれが当たり前だと思っていたけれど、こうして誰かと過ごすことに慣れた今は、思い出すだけで胸が苦しくなる。誰とも会わず、会話もしない日々が、どうして平気だったのだろう。
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