竜族に生贄として捧げられたはずが、何故か花嫁として溺愛されています!?  ――――青き竜は、不遇な令嬢をひたすら甘やかしたい
「無理に夫婦ならこうすべきだと、決めつけなくていいんじゃないか」

「……それって、夜の営みをしないっていうこと?」

「そうだな、今の俺たちの関係には、必要ないと思ってる。それがなくても俺はシェイラのことを大切に思ってるし、これから先も変わらない」

「でも」

「大体、シェイラは経験したこともないだろう。性行為というのは、特に最初は女性の側に酷く苦痛を与える行為でもあるんだ。夫婦というところにこだわって、わざわざそんな痛みを経験する必要はないと思う」

「でも、愛があれば乗り越えられるって、本には書いてあったもん」

 不満を込めてつぶやくと、イーヴのため息が降ってきた。

「俺は、シェイラに痛い思いはさせたくない。俺の花嫁には、いつだって幸せに笑っていてほしいからな」

 頬を膨らませながらも、シェイラは黙ってうなずいた。

 こんな時に花嫁だなんて言われてしまったら、もう反論なんてできなくなる。行為をしなくても、イーヴがシェイラのことを花嫁として大切にしてくれているのは、よく分かっているから。

「ほら、笑って」

 そう言って優しく頭を撫でられたら、シェイラは嬉しくてすぐに笑顔になってしまう。

 心の中で弾けたあたたかいものが全身に巡っていき、じんわりと体温が上がっていくようだ。

 嬉しくて幸せでたまらないこの感覚が、恋愛感情なのか親を恋しく思う気持ちからくるものなのか、やっぱりシェイラには分からない。

 だけどこのあたたかな手のぬくもりを、シェイラがひとりじめしていることだけは確かだ。



「じゃあ、眠る時に手を繋ぐのは?」

「それなら構わない」

 ほらと言って差し出された大きな手を握りしめて、シェイラは笑った。

「うん。あたたかくて幸せ。よく眠れそう」

「それは良かった。おやすみ、シェイラ」

 握っていない方の手が、柔らかく頭を撫でてくれる。幸せなぬくもりに包まれて、シェイラは眠りに落ちた。
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